第6話 回転木馬ノ永イ夢想(前編)
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なしで疲れとるやん」
「そうやね。私もムカつくわあのおばはん。自分偉そうに突っ立ってああだこうだ言うだけで何もせぇへんし」
「おばはんの私物、救援物資の中に混ぜこんだろか」
「だねぇー。ぶっちゃけそれくらいのウサ晴らししても許されることない? ここ来てから自分の守護天使にも会えんへしさ。初めてやわー、こんな長いこと守護天使ログインさせてへんの。高いポイントもらえる言うから来たのに、ほんまエエことないわ」
クグチは嫌な気分になって、そっと遠ざかった。
「ウチら善意で来てやってるのに、調子乗ってんじゃねえっつーの」
裏の校門から、高校の敷地を出た。
出たところは児童公園になっていて、午前の雨と午後の小雨で泥沼のようになっていた。
通り過ぎる時、滑り台とイチョウの木の間に立つ、スーツ姿の男に気付いた。遊具と木の陰に隠れて、顔に右手を当てて肩を震わせている。
クグチは声を出して呼ぼうとした。
向坂ゴエイだった。声を上げて泣いていた。雨が泥と木々と遊具を叩く音に紛れて、耳を澄ませば聞こえる。
四十過ぎの男が児童公園で、たった一人、あたり憚らず泣いている。
傘も差さずに。
その見てはいけない光景を振り払うように、クグチは踵を返した。
電磁体の消滅は、人の死と同じ意味を持つものなのだろうか。その電磁体の持ち主だった人間の遺族にとっては、家族の二度目の死に等しいものなのだろうか。
だとしたら、自分は向坂ルネを殺したことになるのか?
馬鹿な。クグチは寮のプレイルームで一人、不機嫌な表情で貧乏揺すりをしている。酒に強い人間ならば、こんな時は気が済むまで飲むのだろう。残念ながらクグチは下戸だった。プレイルームにはクグチしかいない。卓球台には卓球のラケットが、座卓には碁盤が、テーブルには雑誌が出されたままだ。みんな、あの祝祭の夜に、卓球も碁も雑誌も放って出て行った。その時のままだ。
電磁体は人間などではない。人間のように振る舞うとしても。人間の姿をしていても。人間のような思考や人間のような表情の変化を行うとしても。人間らしく見えるだけだ。電磁体は人間にはならない。電磁体の人格や人権などを認めたりなどしたら、そもそも自分のものとして所有することすら許されなくなるではないか。
けれど、では何故……俺は根津あさがおをUC銃で撃たなかった?
貧乏揺すりがぴたりと止まった。
持ち主の生前の姿で現れる廃電磁体は、遺族や生前の知り合いの心をいたずらにかき乱すだけの存在だ。あれを人間だと思っていないなら、UC銃で消せばよかったのだ。今までと同じように。
なのに……なのに、岸本から数日以内に規模の大きなフレアが来ると聞いて、ひどく動揺した。
あさがおが消えてしまう、と。
いや、違う。いやいや。あれは電磁体だと、
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