第6話 回転木馬ノ永イ夢想(前編)
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「どうせあんな中途半端な奴だから社会から爪弾きにされたんだ。守護天使なんざ関係ねぇ。あんなのいても足手まといだ。給料泥棒だ」
「まだそんなこと言ってるんですか?」
クグチは鬱陶しさに耐えられなくなり、言った。
「どうしてあの人たちが出て行ったか、まだわからないんですか」
マキメも島もクグチを止めはしない。四人が共有しているものは面倒くささ。無気力さ。そして、ACJの特殊警備員であること以外に、この社会での居場所はないという自覚。それだけだ。
岸本はどかりとソファに腰を下ろした。
「フレアが来る」
急に言った。
「大きなフレアが来る。ラジオで言っていた。前々から予測されていた奴より先に来る。だからあんな奴らいらないんだ」
話が見えない。
「フレアと今の状況がどう関係あるんですか」
「わからないのか、お前。そのフレアが外の廃電磁体どもを一掃するって言ってるんだよ」
顔に血が上る。心臓が高鳴り、脳裏にさきほど目撃した、根津あさがおの顔がよぎった。
「それがここに影響するとは限らないですよ」
知らず、強い口調になった。岸本の濁った目が上がり、クグチと視線をあわせ、形を歪めた。
「するんだよ。数日以内に北日本を直撃する。幽霊どもはこれで終わりだ」
雨が家を閉ざす。古くて静かな家を。根津あさがおは畳に寝そべり、アルバムをめくっている。電磁体を映し出すカメラで撮影されたものだ。守護天使は何にでもなった。大きな茶色い鳥。鰯の群れ。自分と同じ大きさの、二足歩行のキジトラ猫。
「キジトラ」
暮れゆく部屋、あさがおは写真を冷えた指でなぞる。
「もういないの?」
悲しみに目を曇らせる。レンズをなくした目を。守護天使が見えない目を。
アルバムをめくる。
次のページには手紙が挟まれていた。
午後から、クグチは向坂ルネの高校に行ってみた。いやに賑やかしくなっている。近付いてみてわかった。救援の医療チームやボランティアの拠点になっているのだ。校庭に泥をかぶったトラックが停まり、迷彩柄の軍服を着た男たちが黙々と積み荷を下ろしている。
このあたりには廃電磁体がうろうろしているのに民間のボランティアがいるのはおかしいと思い、中に入ってよく観察し、理由がわかった。彼らは目にレンズをはめていない。おかしなものを見ないようにというボランティアの規則だろう。耳にイヤホンもない。
校舎の裏に回り、向坂ルネが転落死した場所に立った。すると声が聞こえてきた。女がすすり泣いている。若い声だ。同年代だろうと思った。
はたして二十歳前後の女が二人、非常階段下の掃除用具置き場にたたずんでいた。
「もうやだウチ帰りたいわほんまに」
泣いている方の女が言った。
「なんであんな怒られなあかんの? ウチかて昨日から立ちっぱ
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