第6話 回転木馬ノ永イ夢想(前編)
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ていますよ。彼らは全員正義の裁きを受けなければなりません。お天道様は全てを見ているのですよ。お母さんより。
※
大きな鳥が何羽も空を回っていた。あさがおは木馬の上にいた。木馬も回り、回りながら浮き、沈み、さびた真鍮の持ち手を握るあさがおを、二周目も、三周目も、飽きもせず笑わせた。
世界で一番素晴らしい日だった。二十数年生きてきて、結局あの日が一番素敵な日だった。
「お母さん、あの鳥なに?」
メリーゴーラウンドの柵の外を、若かった母が一緒に回ってくれた。
「どの鳥?」
「あのねー、あのいっぱい回ってる鳥」
「あれはね」
トンビって言うのよ。
記憶がある。
この遊園地で、持っていた揚げパンを落とした記憶がある。理由は忘れたが、手に怪我をしていた。怪我をした痛みでパンを落としたのだのだろうか。よく思い出せない。
そして、駆けつけた母の顔が夕日の中で険しく変わっていった記憶。
仏壇の果物を下げる。完熟しきって、腐敗する一歩手前の段階だ。今日、これを食べてしまおう。
供えていた菊の花束が茶色く枯れている。困って菊を見つめた。あの日以来、花などどこにも売っていないのだ。
予感がした。
特殊警備員が来る。あさがおは玄関に出た。果たして家の前の道を、昨日の特殊警備員が自転車に乗って走ってきた。
その頭上をかすめるように、茶色い、大きな翼を持つ鳥が、のんびり飛ぶ。鳥は上昇気流に乗って回りながら高度を上げていった。
「あの鳥」特殊警備員が目の前で自転車を止めても、あさがおはその姿に見とれていた。「こんな町にもいたんだ」
「どの鳥ですか?」
「ほら、あれ」
特殊警備員は一面の曇り空に目を凝らす。けれども、あんなに大きな鳥を、どうしても見つけられないでいる様子だ。顔をあさがおに戻した。
「お一人で住んでらっしゃるのですか?」
「ええ、まあ」
「他にご家族は……」
「いないんです。もう」
あさがおは愛想笑いを浮かべ、
「でもこの家を出たり、避難しようって気はありませんから。一人でも大丈夫です」
「でしたら、極力家から出ないようにしてください」
「心配してくれるのね。ありがとう」
クグチは躊躇い、尋ねた。
「ご家族は……あの夜に?」
「いえ、二年ほど前の夏に。だから、一人暮らしには慣れてますから。そんなに気にしないでくれても大丈夫ですよ」
「そうですか」そう返事しながらも、「明日も様子を見に来ますから……念のため」
「ありがとう」
実の姉だという女の姿をした電磁体に背を向けて、クグチは自分だけの巡回路を巡る。次の目的地は居住区の外だ。簡易ゲートの内側に自転車を置いて、貧民外のその区画の、掲示板がある場所を周る。
伊藤ケイタを捜す張り紙の多くは、他の張り紙に埋もれて見え
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