暁 〜小説投稿サイト〜
Magic flare(マジック・フレア)
第6話 回転木馬ノ永イ夢想(前編)
[2/12]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ていた。それで明日宮と衝動的に離婚した。あいつがQ国に行っている間にな。娘さんのほうは母親といることを選んだが、お前はまだ幼すぎた」
「だとしたら親父は? 精神病の妻と娘と俺をほったらかしてQ国に居残ったってのか?」
「そんなわけねぇだろ馬鹿野郎!」
 突然怒鳴られ、クグチは体をこわばらせた。
「Q国に残る結果になったのは事実だ。そのせいで死んだのもな。だがあいつは家族をほったらかしになんかしなかったぞ。遠く離れたQ国から仕事の合間を縫って二人に後見人をつけた。道東の自分の実家に住めるように手配をした。お前のことだって親戚や知人に引き取ってもらえるように散々当たってだな!」言葉を切り、呼吸を整えて「……お前にはあっちこっち転々とした記憶は残ってないようだがな」
「根津あさがおは道東の、俺の親父の実家にいるんだな」
「そうだ。もう五年近く音沙汰なしだが、去年俺から出した手紙は配達されたようだから、恐らく今でもいる」
「場所はどこだ?」
「今の道東居住区、東三十三区十号二十一番」
「東のほう……被害がひどかった場所じゃないか」
「祭りの夜だった」
 弁解がましい声に聞こえた。クグチは激しい嫌悪の衝動に駆られ、それに耐えた。
「だから?」
「彼女がその時、家にいなかったことを祈っている」
「勝手に祈ってろ。もし姉と母親が死んでいたら、俺は間近にいながらあんたのせいで家族の死に目に会えなかったことになる。死ぬまで恨むからな」
「……そっちはどうなっている?」
 強羅木が苦々しげに話を変えた。
「面白いことになっている。向坂ルネに会った」
「何を馬鹿な、向坂の息子なら二年も前に亡くなった」
「冗談で言っているとでも? そうだ。桑島メイミにも会った」
「どういうことだ」
 クグチは通信を切った。強羅木はこれまで自分に大事なことを黙っていた。今度はこちらの番だ。

 ―3―

 何かがくる。
 女は予感した。
 黒髪に櫛を差したまま、女は待った。それがいつまで経っても来ないので、窓辺に寄った。畳の上にはらはらと、長い髪が落ちた。
 一階の屋根の下、玄関から少し離れた場所に、ACJのジャンパーを羽織った男が立っている。レインコートを頭からかぶり、自転車に跨ったままだ。櫛を置き、階段を下りた。玄関扉を開けた。男はまだ同じ姿勢のまま家の前にいた。
 視線が合うと、男はさっと顔を強張らせた。眼鏡の向こうの目の焦点が、はっきり自分に絞られる。男は若く、青ざめている。
「何かご用ですか?」
 黙っているので、自分から尋ねた。
「ACJの人ですか?」
「ええ――」男は顔を背け、「巡回に」そしてまた顔を見て、「根津あさがおさんですね?」
「そうですけど」
 あさがおは首をかしげる。警察でも消防団でもなく、ACJの特殊警
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ