第六章
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第六章
「それをな。それでいい」
「この時計で?」
「とりうあえずあの女の子はいいと言っていたな」
「聞いていたんだ」
「悪魔の耳は地獄耳だ」
言葉は少し誇らしげだった。
「このことはよく覚えておけ」
「覚えたけれど」
「そのうえ目は千里眼だ」
こうも言い加えてきた。
「だからだ。何でもわかるのだ」
「というか覗き見してたんじゃないの?」
しかし榮一の見方はシビアであった。
「物陰からそっと。そうじゃないの?」
「だが地獄耳に千里眼は持っているぞ」
ズバリ指摘され苦しい顔になるアスタロトだった。
「そしてだ」
「けれど覗き見はしていたんだ」
「ええい、話を進めるぞ」
今度は業を煮やした感じになっていた。やはり榮一に対して分が悪い。
「その代償だが」
「この時計ってこと?」
「そう。その時計だ」
あらためて榮一が今左手に着けているその時計を蛇で指し示して告げた。
「その時計を貰い受けよう」
「この時計でいいんだ」
「とりあえずそれでいい」
投げやりな言葉ではある。
「それでな。貰ったらもうそれで御前の話は終わりだ」
「こんなのでいいなんて」
「御前等の魂よりはずっとましだ」
「そんなに僕達の魂って価値がないんだ」
「価値がないのではない」
アスタロトはそのことは訂正させた。
「しかしだ」
「しかし?」
「いらん」
こう言うのである。
「ただ邪魔なだけだ。いいな」
「わかったよ。それだったら」
「うむ。貰おう」
時計は勝手に榮一の手から離れアスタロトの手に渡った。彼はその時計を左手に見てからそのうえでまた榮一に顔を向けてきた。
「これで私と御前の話は終わりだ」
「うん」
「二度と呼ぶな」
憮然とした顔で告げる。
「二度とな。いいな」
「また何かあったら呼びたいけれど」
「せめて日本人でなくなってからにしろ」
あくまで日本人には呼ばれたくないのであった。
「いいな。我々もまた一つの正義だと」
「だから百人いれば百人の正義があるから」
「その主張がわからん」
悪魔にはどうしても我慢ならない主張なのであった。何故なら彼等は自分達が悪であることをそのアイデンティティとしているからである。
「全く以てな」
「とりあえずもう呼ぶなってことなんだね」
「呼んだらただではおかん」
その黒い髪が風で揺れていた。しかし何故か風は右から左なのに髪の毛は左から右に動いている。それが極めて不自然であった。
「いいな」
「それはわかったけれど何で髪の動きと風の動きが逆なの?」
「私はこちらに髪をたなびかせるのが好きなのだ」
だかららしい。
「それだけだ。気にするな」
「それはわかったよ」
「とにかくだ。呼ぶな」
このことを
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