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アスタロト
第三章
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第三章

「召使というか社員みたいなものだよね。だったら」
「そういう考えで魔界に生まれ変わったと考えて平気で暮らしている。他の過去の者達がそのことに後悔したり恥じたりしているのにだ。しかも」
「しかも?」
「そこでも神や仏を拝む」
 そういうこともしているらしい。
「神といっても神社か。日本の神々だな」
「ああ、そっちね」
 榮一もそれを聞いて納得した。
「そっちの方なんだ」
「神社や寺まで何時の間にかできてだ。しかも毎日朝から晩まで働いて休むことがない。我々が酷使するぞと脅す前にもう自分から働く」
「日本人だからね」
「そんな連中の魂はいらん」
 ここまで話してまた彼に告げた。
「そんなものこれ以上はいらん。今いる連中もまとめてそちらの神か仏の世界に送り返したいと考えている位だ」
「そこまで嫌なんだ」
「わかったな。だから御前の魂はいらん」
 そしてまた榮一に告げたのだった。
「絶対にな。それは絶対に受け取らないからな」
「わかったよ。じゃあそれはいいよ」
「うむ」
 魂の話はこれでなくなった。
「じゃあ。何がいいのさ」
「それは後で考える」
「後でって」
「とにかくだ」
 アスタロトはかなり面倒臭そうに彼に告げた。
「発明の才能だな」
「うん」
「これを読め」
 早速一冊の本を懐から出して彼に投げ付けたのだった。
「この本をな。そうすればそれで御前は発明の天才だ」
「この本を?」
「既に日本語訳もしてある」
「早いね」
「元はラテン語だった」
 どうやらそうらしい。
「それを訳しておいた。さっさと読め」
「とにかくこれを読めば僕も発明の天才になれるんだ」
「大天才とか超天才になりたければ他にもまだ本がある」
「あるんだ」
「まずそれは入門編だ」
 見てみれば確かに表紙に入門編とある。タイトルは『君にもできる!脅威の発明』というどうにも胡散臭さも感じられるものであった。
「そしてだ。発展編に上級編もある」
「上級編まであるんだ」
「上級まで読めばダ=ビンチになれるぞ」
「あのルネサンスの!?」
「それかエジソンだ」
「うわ、そこまで」
「それでどうするのだ?」
 ここまで話してまた榮一に問うのだった。
「とりあえず入門編は貸しておくがな」
「貸してくれるんだ」
「別にコピーしてもいい」
 この辺りは随分寛大だった。
「その金は御前持ちでな」
「コピーするお金位お小遣いでどうにもなるけれど」
「だったらそれは好きにしろ」
 やはりこの辺りは気前がいいと言えた。
「貸すだけだからな。大切にするようにな」
「わかったよ。それじゃあ」
「もうついでだ」
 やはりアスタロトの口調は面倒臭そうだった。日本人の相手をするのが相当嫌らしい。

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