禁酒令
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のだ。そこまで記憶を辿ると、自分が初めから部下の想定内で動いていたことに気付いて面白くなかった。
「卿が作らなくとも」
やり場のない悔しさからそう言ってみたものの、軽くあしらわれるのは目に見えていた。
「ではコックでも呼んで、酒の肴を作らせますか。小官は構いませんが」
案の定の切り返しに、オーベルシュタインが再度目を逸らす。
「いや……」
禁酒令を出した当人が、酒を飲むために料理人を呼ぶなど、できるはずがない。それが分かった上での意地の悪い問いに、オーベルシュタインはそれ以上言葉をつなげることができなかった。
「そうですか。とはいえ、軍用レーションをつまみになどしたくありませんからね。小官がお作りするということで、異存ありませんでしょうか」
「ああ」
吐き捨てるように肯いたその頬が、多少なりと膨らんでいたところで、彼を責める者はなかった。一連の会話の最中も、フェルナーの手は食材を洗い、下ごしらえに余念がなかった。そして宣言通りの15分後、呆れる上官の前に、カリーヴルストとグリル野菜の生ハム巻きが置かれた。
「とりあえずどうぞ。もう10分もすれば煮込み料理ができあがります」
口には出さなかったが、およそ家庭的とは言い難い部下の思わぬ特技に、オーベルシュタインは内心で感嘆した。
「簡単なものばかりで、お気に召しませんか?」
出された料理を言葉なく眺めていたオーベルシュタインに、フェルナーが怪訝そうな顔をする。
「いや、そうではない。卿がこのような特技を持っているとは思わなかった。少し意外だっただけだ」
上官が思ったままを伝えると、フェルナーの顔がほころぶ。
「特技なんてもんじゃないですよ。この年まで一人で暮らしてれば、この程度のことはね。まあ、閣下には縁のない話でしょうが。そんなことより、冷めないうちに召し上がってくださいよ」
二人はワインを注ぎ直して、できたてのカリーヴルストに口をつけた。歯ごたえのあるソーセージが、失われていた食欲をそそる。厨房ではザワークラウトとベーコンのぐつぐつと煮える音がして、その香りと共に、オーベルシュタインは何とも言えない穏やかな気分にさせられた。
「ほら、食べ物は大切でしょう?」
悪戯に成功した子どものような顔で、フェルナーがワインを差し出してくる。気がつけば自分の頬はほのかに赤らんでおり、あれほどきつく歪んでいた顔も柔らかく弛緩して、美味しい料理を咀嚼している。身体全体から力が抜けていることを自覚した。
「そのようだ」
してやったりと緑の目を光らせる部下を見ると、まんまと策略にはまったようで癪に障ったが、先ほど感じていたような苛立ちは消え失せていた。フェルナーはふふっと得意げに微笑んで立ち上がり、三品目の料理を手早く皿へ盛り付けた。
「お待たせしました、ザワークラウ
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