閉幕 おとぎ話の終わり方
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でに水位が腰に達する位置にまで進んでいた。
走って追っても間に合わない。だから呼ぶしかないのだと自身に言い聞かせ、ヴィクトルは口を開き――
絶対にありえない人が、フェイを呼んだ。次いで、水を掻き分けて進んでくる音。
フェイはひたすら動揺し、狼狽した。呼んだだけではなく、フェイを明らかに追いかけて来ている。
水音がフェイの背後で止まった。
ふり向けない。また冷たい言葉を投げつけられたら。またぶたれたら。その想像に息苦しくなっていっても、もう宥めてくれるジュードはいない。
(だって、だってわたしが殺したんだよ? なのに、来るわけない。来るわけない、来るわけ)
「フェイリオ」
二度呼ばれ、フェイも認めざるをえなかった。今フェイの後ろに立つのは父――ヴィクトルだと。
ふり返った。水面が波立ち、鎮まった。
ダークスーツなのはフェイの記憶と変わらない。ただ、見上げたヴィクトルの顔に、黒い仮面はなかった。外気に曝されている黒い肌と赤い眼――フェイと同じ、赤い眼。
「どうして?」
泣きそうな声で、それしか問えなかった。死んだ後でさえ、ヴィクトルはフェイを憎んで追ってきたのか、という意味を込めて。
「……ジュードたちの下へ行きたい。お前が行き方を知っていると、聞いた」
「え?」
「酷いことをした。今さらジュードたちが私を許すとは思えないが、それでも……謝らなければ、ならないんだ」
「フェイ、が、案内して、いいの? 一緒に行って、いいの?」
ヴィクトルは無言で、フェイと目を合わせた上で肯いた。
涙が零れた。悲しいからではない。フェイは嬉しかった。
初めて父に必要とされた。要らない子で憎い子だったフェイを、父が頼ってくれた。
それだけで、愛されなくても充分だった。
「……だいじょうぶ。こわくないよ。パパは何があってもフェイが守るから」
フェイは涙を流しながら、極上の笑みを浮かべた。
「ああ――じゃあ、連れて行ってくれ。パパの友達のところへ」
返事に替えてヴィクトルの腕にぎゅっと抱きつく。ヴィクトルは振り解かず、空いたほうの手で一度だけフェイの髪を梳いてくれた。
腕をほどく。父と娘は手を繋ぐ。
そして、一組の親子が、湖の底へ共に沈んでいった。
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