君にはわからない話をするけれど……
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て帰りたいからなんじゃないの?」と茶化すと、北上は「駆逐艦ってホントうざいなー」と言い、腕を組んで足早に司令室から出て行ってしまった。大井が慌ててついていく。北上の声は震えていた。
北上には、嫌な思いをさせてしまった。深海棲艦になりかけた仲間を撃つなんて、辛かっただろう。雷にはまだ意識があったから、なおさら…。彼女には本当に頭が下がる。
私はその場に残された雷を、腰を落としてそっと抱いた。
「どうしたの? ……司令官、泣いているの?」
私は少し黙った後、静かに告げた。
「君にはわからない話をするけれど……私は、君が帰ってこなかった日には泣けなかったんだ。元気な君のことだから、何気なくひょっこり、帰ってくるような気がして……。でも、何度陽が落ちても君は帰ってこなかった。三日もするうちに、本当に君を失ったんだと実感して、毎日が辛かった。それでもまだ、泣けなかったんだよ。でもね、でも……君は私に、気持ちを伝えに帰ってきてくれた。私にはそれが、本当に嬉しかったんだ。君の身体を見ればわかった。痛かったろう、辛かったろう、淋しかったろう……!私はあの時、初めて、君を失った涙を流すことができた……」
そして、私は少し、呼吸を整えた。
「今度は、新しい君を迎えて涙を流せたんだ……こんなに嬉しいことはないよ」
私は、小さな小さな雷に、外聞なく、すがるように抱きついた。窓からは暖かな日差しが入っていた。
「今度はどうか、沈まないでおくれ。私は君らを戦地に送り出さなければならない。身勝手な願いだって、わかっている。けれども、どうか、沈まないでおくれ……」
そう言って私は、もう、顔をくしゃくしゃにして、嗚咽を交えて泣いてしまった。彼女の服が涙で濡れて、鼻水で汚れてしまった。それでも彼女は、そんな私を嫌がるでもなく、むしろ、ぐっと引き寄せて私の頭を撫でた。
そして、奇しくも彼女が最期に贈った、届かなかったはずの言葉を、口にした。
「元気ないわね、そんなんじゃ、だめよ……。司令官、私がずっとそばにいるからね……」
(完)
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