君にはわからない話をするけれど……
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胸と言わず、腹と言わず、手と言わず、足と言わず、背中と言わず、もちろん、自ら撃った頭部と言わず――だ。どこもかしこも傷だらけで、血だらけ。臨死どころか、死亡そのものである。最後の頭部の傷を差し引いたとしても、こんな状態でよく歩けたものだと自分に感心する。
しかし、すべて徒労だった。これだけ傷を負って戻ってきても、私は迷惑しかかけなかったのだ。私が仮に北上さんを殺していたら、あの憎しみに呑まれて本当に深海棲艦になっていただろう。私は結局、鎮守府に恐怖を与えにいったようなものじゃないか。
ごめんなさい、司令官。北上さん。みんな。
そう思いながら、私が自分の身体を眺めていると、司令官はすぐに攻撃命令を取り消し、私の亡骸をそっと抱きしめた。
私は、えっ、と声を上げる。
司令官は、「おかえり……雷。頑張ったね」と、撫でて、くれた。いつもより頑張ったね、えらいね、と言って、ずっとずっと、撫でてくれていた。ずっとずっと、抱いてくれていた。私の顔にはいくつかの涙がぽたぽたと垂れてきていて、海水ばかりですっかり冷え切っていた私の身体に、司令官の体温が溶け込んでいった。
嬉しい。嬉しい――。でも、どうして司令官は『ワタシ』を『私』だとわかってくれたのだろう……。あの深海棲艦をどうして私だとわかってくれたのだろう……。
そこで、思い出す。沈んだばかりの頃に思い出せなかった、最期の海戦の記憶。
私は敵から攻撃を受け、聴覚を失った。だんだん司令官の声が聞こえなくなって、不安になったのを覚えている。
私は喉が欠損しているのだと思い込んでいたけれど、欠損していたのは聴覚の方だった。
ということは――声は届いていたのだ。私の最期の、あの告白は、司令官に届いて、いた。
司令官は、まだ撫でてくれている。涙を流しながら、撫でてくれている。
ここは、ぜんぜん、深海なんかじゃ、なかった――。
どこよりも明るくて、どこよりも暖かい場所だった。
その中で、誰よりも幸せで、誰よりも報われて、大事な言葉を届けることができた私は、もう一緒に泣けないけれど、ずっとずっと泣き続ける彼の頭にそっと手を載せて、今後こそ届かないだろう最後の言葉を、贈った。
「――――――、――――――、―――……。―――、―――――――――――――……」
5
それから、しばらく経った日のことである。
私が司令室で書類の整理をしていると、
「あなたが司令官ね!雷よ!かみなりじゃないわ!そこのところもよろしく頼むわね!」
と、元気な駆逐艦がやってきた。どうやら、出撃させていた第一艦隊が連れてきたようである。
北上が、羅針盤の調子が悪く、惜しくも戦艦レ級を取り逃したため早く帰ってきたのだ、と告げた。
続けて、島風が「この子を早く提督のところに連れ
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