君にはわからない話をするけれど……
[5/7]
[1]次 [9]前 最後 最初
撃たれたらしい。手に持てる小型の武器とはいえ、元々が海上用の遠距離武器である。この距離ではワタシの腹部くらいは軽々と貫通したようだった。足ががくがくと笑う。北上さん、ワタシは深海棲艦じゃ、ない、よ……。
ねぇ、じゃま、しないで。ワタシは、司令官に逢いに、来たの。
ワタシが、ワタシがどれだけ辛い思いをしたか、わかる?
どんな気持ちで、歩いてきたか、わかる?
どれだけ痛い思いをしたか、わかるの?
あなたには、わからない!
ワタシは北上さんの手から無理やり単装砲を奪い取って、その重さに任せて顔面を殴打した。そして、膝をついた北上さんに砲身を向けて、ぶるぶる震える指に力を込める。既に照準すら合わせることができないが、それでも構わない。許せない。許せない、許せない!ワタシの気持ちも、あの深海棲艦に会えた奇跡も、すべて帳消しにする、北上さんが!許せない!司令官に逢おうとするワタシをジャマする行為が許せない!ワタシは、ワタシは、おかあさんって呼ばれてて、だから、母は強いって、誰かが言っていたから、ワタシは、ワタシは、強いんだから、強いん、だから!だから、許せない奴は殺すんだ!……そして、単装砲の引き金を引く。私が撃たれた時とは別の衝撃が身体を伝わった後、血が飛び散った。北上さんは肩から血を流したままこちらを睨んでいた。どうやら狙いは外れたらしい。
ワタシは、ふと、大鏡の近くまで来ていたことに気付く。
そこには北上さんの後姿と、白い髪の、白い服を着た、片足を失った醜い深海棲艦そのものが、単装砲を持って映っていた。
ワタシがその事実を飲み込んだのとほとんど同じタイミングで、銃声を聞いて慌てて飛び出してきた司令官は、ワタシの姿を見て鎮守府内の艦娘に攻撃の合図を出した。ワタシには、それだけで、もう、十分だった。
ワタシは、もう、迷惑なのね。
ワタシが、もう、撫でられることはないのね。
どれだけ泣いたって、ワタシの声は、届かないのね……。
暗くって、冷たくって、心がおかしくなりそうな場所。
ここが、深海か――。
今度こそ、ワタシは実感した。
ワタシがいれば、司令官に迷惑がかかる。だから、司令官……聞こえなくてもいいから、最後に、ひとつだけ、言わせて。
雷は、あなたを、愛しています。誰よりも、だれよりも、あいしています。めいわくかけて、ごめんなさい。
ワタシは北上さんから奪った単装砲を、口を開けて、ちょうど喉の奥に砲身が当たった時に、引き金を――引いた。
ほんの少しだけ、身体が軽くなったような気がした。
4
私は、倒れた私の身体を見下ろしていた。
臨死体験、というわけではないだろう。現に私の身体はどこの部位をとっても決定的に破損していた。首と言わず、肩と言わず、
[1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ