君にはわからない話をするけれど……
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が鎮守府に辿り着くことはできなかっただろう。仮にできたとしても、浦島太郎みたいに、すべてが終わって、皆が、そして司令官が、いなくなった後かもしれない。そう思えば、たとえ罠かもしれなくてもワタシは……私はついていくしかなかった。
水面が随分近くなってきた。陸が近いのだろう。私……ワタシはなんとか曲がった砲身を前に突き出して、まるで弱った子鹿のようにゆっくりと前に歩みを進めて、また杖を突き出して――の動作を繰り返した。無様でもいい、装備を雑に扱った罰なら後で受けよう。ワタシには司令官が必要なのだ。
果たして、陸を上がった先は鎮守府前の見慣れた停泊地だった。ワタシはたっぷり十秒は使って陸に上がって、ほうっ、と息を吐く。
帰ってこれたんだ。
あの深海棲艦がどういった意図があってワタシを助けたのかは不明だが、それでも敢えて想像するなら、あの深海棲艦は敵を助けたとすら思っていないのだろう。今のワタシでは敵にすらならないということか。それでも、今度あの深海棲艦に会ったら礼を言わなければなるまい。とはいっても、ワタシが次に逢うときには敵として会うのだから彼女に礼を言っている暇はないだろうが――。
どっと疲れが出てきた。このまま入渠したい気分だったが、ワタシの今の目標は司令官の顔を見ることだ。もしかしたらワタシは長い眠りについていて、地上では百年経っていた――なんて、そんなこともないわけではない。ワタシはとにかく不安だった。それ以上に、ワタシは報われたかった。ワタシは沈んでからずっと怖かったし、辛かったし、痛かった。だからワタシを見つけて、いつもみたいに、いや、いつもよりもずっと頑張ったんだから、いつも以上に抱きしめて「頑張ったな」って、そう、言ってほしい。
沈んだはずのワタシが鎮守府に帰ってきたら、皆、驚くかしら――そう思いながら、鎮守府の扉を開けた。いつもどおりの靴だらけの玄関を過ぎて、ワタシが足と杖代わりの砲身を引きずりながら鎮守府を歩くと、廊下の突き当たりにある大鏡が見えた。目は随分とぼやけているけれど、ワタシは今にも死んでしまいそうなくらいぼろぼろなのがわかる。
鏡を挟んで、廊下の角から北上さんが歩いてきた。ワタシは嬉しくなって、良かった、生きていたんだね、と駆け寄ったが、うまく声にならないようだった。深海では気付かなかったが、ワタシは喉まで欠損していたようだ。
その時だった。
北上さんが、ワタシに向かって素早く砲身を向けた。冗談かと思ったけれども、その顔は真面目そのもので、いつも無気力な北上さんが見せる、戦闘でのきりっとした顔だった。沈んで戻ってきたワタシのことを深海棲艦だと思っているのかと思って必死に弁明しようと思ったけれど、声が出ないのでは弁明のしようがなかった。
そうしているうち、強い衝撃があった。腹部を間近で
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