君にはわからない話をするけれど……
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レキュウだ。レキュウというのは、地上にいる連中がそう呼んでいるのを聞いた。ワタシたちは名前と言う概念がなかったから、名前を持っているのはワタシだけなのだ。だから、ワタシが一番偉いのだ。だから、ワタシに命令する奴を殺すのだ。サテ、それは誰だっただろうか。
そう思っているうちに、先ほど見つけた面白そうな奴が転んでいた。ワタシは近くの岩場に腰をかけて、それを見ていた。転んで生傷ができている。腕にも顔にも腹にも足にも生傷ができていて、そういえば片足がない。なるほどこれは面白い。ワタシは彼女の横まで、すいっと移動して尋ねた。
「なんのために歩いている?」
返事は、なかった。彼女の顔はきりっと前を向いて、ワタシが眺め始めてからずっと休まずに歩いていた。こいつはとっくにおかしくなっているのかもしれない。
目の前に姿を見せて、ようやくカンムスはワタシの存在に気付いたらしい。
「なんのために歩いている?」
二度目の質問をするが、聞き取れなかったようだった。怪訝な顔をするカンムス。そういえば、深海では喉を通した発言は聞こえなかったんだっけ。忘れていた、忘れていた。ワタシは信号をツートンツートンと送ってみると、しばらくしてカンムスの雑音だらけの通信機から「帰るためだ」と返答があった。ワタシはゲラゲラと笑う。笑い転げてしまう。しっぽがカンムスに当たって転んでいた。なんだこいつ。そんな状態で帰ってどうする。方向も違う。歩いていける距離でもない。こいつはなんて、頭が悪いのだろう。ワタシは「近くまで連れて行ってやろうか?」と打電する。瞬間、笑顔になるカンムスであった。人がせっかく親切心を見せてやろうというのに、何も笑顔になることはないだろうに。甚だ不快である。まったく、これだからカンムスは常識が通用しなくて困る。こんなのが地上には跋扈しているというのだから、地上には近寄らないほうがいいだろうな――。とはいえ、ワタシを不愉快にした愉快さに免じて許してやるとする。ワタシは――ナンダッケ、なんとかの王、戦艦レキュウさまだからだ。
3
私が歩き始めて何日経ったかわからないが、途中、深海棲艦に逢った。
随分、特徴的なしゃべり方と考え方をした、今まで逢った中でも奇抜な艦だった。
彼女はワタシを……私を牽引して鎮守府あたりまで送り届けてくれたらしい。らしい、というのは、本当にここが鎮守府の近くかどうかは、正直なところわからないからだ。慣用句を使う甲斐がないが、まさに渡りに船だった。だからこそ、なおさら疑わしい。海はいくらか明るくなったので少しは浅瀬に来ていると判断できるとはいえ、適当なところにワタシを――どうやら、あの深海棲艦のしゃべり方が移ってしまったようだ――私を置いて楽しんでいるのかもしれない。
しかし、あの誘いを断っていれば、事実、ワタシが……私
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