君にはわからない話をするけれど……
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どに住む不思議な生物である――も、既に海のどこかに散ってしまった。私は今やただの鉄くず――――。
「それ以上、考えては、だめ」
私は微かに首を振る。絶望的な状況だからこそ、思考がマイナスになってはいけないのだ。とは言っても、こうも周囲が暗いと精神が蝕まれることは事実だった。だから深海棲艦は精神が不安定なのだろうか。だとするなら、私を沈めた相手とはいえ、同情する。今だけの、ほんの浅い同情だけれど、不憫だと思う。
――司令官。
逢いたい。
私が帰ってきた時にそっと抱いてくれるのが好き。私が強がりを言ったときに優しく撫でてくれるのが好き。私が悲しんでいる時に、姉妹よりも先に気付いてくれるあなたが、好き。こんなに、こんなに、すき。
逢いたい。逢いたいんだ。
私は、曲がった砲身を杖代わりにして、残っている足を軸にして立ってみる。潮の流れが変わるたびに転んで、擦りむいて、ひどい見た目になってしまうけれども、ここで横になったままでいるよりはましだ。
そうだ、いつか誰かが言っていた。「母は強い」と。そして私は世話焼きだから、司令官のお母さんみたいだと言われたことがある。それならば、私は強いはずだ。何度転んでも負けない。どうせ、このまま海底にいれば、朽ちて、錆びて、それでも意識だけはなんとなくあって、毎日、毎日、司令官に逢いたいに違いないのだ。きっと、戦争が終わっても、司令官が死んでも、私はずっとずっと逢いたいのだ。それならば、方向なんてわからなくていい。距離なんてわからなくていい。私は司令官に逢えるまで歩くだけだ。転んでも、歩く。その繰り返しだ。
ほら、大丈夫。
私は、強いから。
2
――面白そうな奴がいる。ぼろぼろになって歩いているその生物の身体は、ワタシたちが敵対しているなんとかいう――カンムスとかいう生物に似ている。
どいつだったか、覚えていないけれども、というか、そもそもワタシは相手が誰だろうと、判別が付かないのだけれども、仲間だろうと構わず撃ち落とすくらいの生粋の白痴なんだけれども(白痴ってなんだっけ?今度黒い奴にでも訊いてみよう)、面白い生物を撃つことはしない。様子を見てみよう。
誰だったかなぁ、あの白い奴――まぁ、ワタシたちの仲間はザコを除いて大概白いんだけれど。なんの話だったっけ。そうそう、あの白い奴が言っていた。カンムスとかいう生物を見つけた時には容赦なく徹底的に、殺すこと――確かそう、言われたんだった。たぶん。どうだったかな。自信がない。まぁ、いい。となると目の前にいるのがカンムスなら殺さなきゃいけない。ん?『殺さなきゃいけない』だって?誰だ、ワタシにそんな命令をするのは。殺してやる。黒い奴だったか、白い奴だったか覚えていないが――。ともかく、殺してやる。ワタシは誇り高きアホどもの王、戦艦
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