第一章
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れてしまった。それを鏡で見てまた顔を顰めさせるのであった。
「しまった」
「なおした方がいいわね」
「ええ、これはね」
淳美に応えて実際にそれをなおす。唇の出過ぎた紅が消えたが久代の心はまだ戸惑いが色濃く残っていたのであった。
「とにかくよ」
久代はそのうえでまた言う。
「言えないのよ」
「何でよ。言わないとどうしようもない話じゃない」
相手あっての話だ。だからこれは当然であった。だがそれでも久代はまだ渋っている様子であった。
「それでどうして考えているのよ」
「言えないのよ」
久代はこう答えた。
「どうしてもね」
「言えないって?またどうしてよ」
「彼、そういうの言ったらどうなるかわからないから」
久代は今度は目を顰めさせた。それと共に手の動きが止まった。
「不安なのね」
「ええ。まさかとは思うけれど」
ここで心の中を不安が覆い尽くしたのであった。
「別れるとか言い出したらどうしようかしら」
「その時は無理にでも責任取らせなさい」
随分強気な淳美の言葉であった。
「そんな男許していたら駄目よ」
「あんた、気が強いのね」
「女はそうじゃなくちゃ駄目よ」
今度ははっきりと言い切ってみせた。
「そんな男許していたらいけないに決まってるでしょ」
「それはそうだけれど」
「それによ」
ここで淳美はまた言うのであった。
「今度は何?」
「あのね、久代」
鏡に久代の方を見上げる淳美が映っていた。それは彼女自身もわかっていた。その鏡の姿を意識しながら話をするのであった。
「それにあんた彼氏だけれど」
「ええ」
「あんたが選んだんでしょ?」
それを彼女に問うのであった。
「性格は間違いなくいいからって。それでだったわよね」
「ええ、そうだけれど」
久代もそれは自分で認めるのであった。実は彼女が今の彼氏と付き合うようになったのはその優しく穏やかで丁寧な性格を見て自分で告白したからだ。意外と積極的に攻めたのである。少なくともその時はだ。
「だったら。自分の目を信じなさい」
「私の目を」
「それによ。彼氏を」
ここでまた淳美は言う。
「確か。名前は」
「前川清司よ」
彼氏の名前を言ってみせた。
「そうよ、前川君。彼を信じないの?」
「別にそうじゃないけれど」
「だったら信じなさい」
淳美の言葉は言い聞かせるものになっていた。少し怒ってさえいた。
「そうじゃなければ何なのよ。そうでしょ」
「ええ、まあ」
頼りない言葉だがそれに応えるのであった。
「そうよね、やっぱり」
「そういうこと。じゃあ決まりね」
淳美は強引に話を終わらせるのであった。それと共に今化粧も終わった。
「それじゃあそういうことでね。いいわね」
「え、ええ」
久代
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