第二章 彼と彼女の事情
第十五話 未来への扉、過去への誘い(いざない)
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みたい。じゃあ、またね!」
ちょっと待って、ちーちゃんって一体誰のこと?
呼びかけようとするけれども、少女は目の前でゆっくりと消えてしまう。最後に何かを伝えようと少女は口を動かしたけれども、その言葉は遂に私の耳には届くことが無かった。
「あれ……ここは?」
夕焼け色に染まりつつある畳を視界の端に捉えながら、私は意識を取り戻した。
随分とリアルな夢を見た気がする。
見た夢を思いだそうとするけれども思い出せそうにない。
まるで、記憶に鍵を掛けられてしまったような感じ、とでも言ったら正確に表せるだろうか。
「友香さん、お目覚めになられたのでしょうか?」
「千早…さん?」
薄暗くなりつつある部屋の中に一際目を引くその長く艶やかな銀の髪。
「お目覚めになられないようでしたら、そろそろ起こそうかと思っていたのですよ。」
口元にはいつも微笑みを浮かべて、私を見下ろしていた。
目元を擦りながら、不思議とあれほど思い詰めていたものがすっかり溶かされてしまったように感じる。
「試召戦争のこと以外に、謝らないといけないことがあるのです。」
そういって小さな封筒と大きく分厚い封筒を一つずつ手渡される。
「こちらは……その…、友香さんの……」
言いにくそうにしている千早さんに中身が何であるのか悟ってしまう。
「そう、結局見られちゃったのね」
無感情な声が漏れてしまい、思わずしまったと顔をしかめる。
自分はなんて事を言ってしまったのだろう。
気まずい雰囲気が彼女との間に流れる、そのことにひたすら後悔の念ばかりが後から後から沸き出てくる。
「こちらを、ご覧頂けますか?」
それはカッターを着ただけ根本の写真ってこれ…
「人を呪わば穴二つと古人は仰せられましたから。」
事も無げに混ぜっ返して見せる彼女。
「……あはは、同じ目に…あったんだ。彼も…。はは、あははは、はは……」
もう、何もかもが馬鹿げて思えた。
何を私は必死になって隠そうとしていたんだろう。私は……
「友香さん、私は何があっても貴女を軽蔑なんかしません。貴女の姿を無様だなんて思ってもいません。ですから、そのように御自分を傷つけるようなことをしないでください。お願いです、だからどうか……」
彼女の震えた声で私は目の前の現実に引き戻され、そして私は驚愕する。
「千早さん……どうして貴女が泣いてるの?」
「えっ?」
彼女のスミレ色の双眸から涙が零れているのを、私はただ呆然と眺めていた。
ハンカチをこの時彼女に渡していたらどうなっただろうかと、下心一杯に後日私は考えたけれど、この時はただ、涙を流す彼女を前に私のそれまでの思考は崩されていった。
「その……ありがとう、私一人だったら絶対に潰れてた。」
「お役に立てたのでしたら、少しは贖罪になれた
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