第二章 彼と彼女の事情
第十五話 未来への扉、過去への誘い(いざない)
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出るには二通りのルートがあるのだけれど、さてどっちの方が人目に付かずに帰れるだろう。
いろいろな部活が使用しているグランドの横を通るのは避けたい、かといって裏手に回っても陸上部のロードワークだとかに鉢合わせしそう。
とにかく誰の目にも触れたくない。
悄然とした心持ちを胸の奥に仕舞い込み、私は立ち上がろうとした。
しかし自分の足があまりにも長く正座を続けたあまり*つっている*ことさえ忘れていた。
倒れそうになってとっさに畳に手をつく。
こんなに派手に転んだのは何時ぶりだろうか。
『足が痺れたように感じるのは足先にイオンがたまった結果だ、なんて以前テレビ番組で耳にしたことがあります。』
そんな『あの人』の声が脳裏をよぎる。
(もう…二度とまともに顔を合わせられない。)
目の前の畳が薄緑色に歪み、胸が締め付けられるように苦しく感じる。
「何でよ……どうして、なのよ……」
思わず零れ出てしまった言葉をもう吐き出さないように唇を固く噛む、力が入りすぎているらしく口の中に血の味が広がる。
泣くだけで赦されるというのなら、それこそ身の振りかまわず泣き出したいところだ。
だから、必死に涙を堪える。
和室にある蛇口を捻り顔を洗った。
冷たい水が顔に溜まった熱を取ってくれたように感じる。
小さな手鏡は教室に起きっぱなしの私の鞄に化粧道具と一緒に入れているのだから手元に鏡はない。
しかたなく水鏡に自分の顔を映し見る。
波打つ水面に、暗い水屋の中に映し出された私の顔色が悪いのは何も光加減ばかりではないだろう。
それでも目が少し赤いばかりで、それほど充血しているようには見えないことに少しの満足感を得る。
無理矢理に笑って見せようとすると、その鏡に映る私はこれ以上無いほどにいびつなように見えた。
和室の鍵を開いて外にでる。
「はぁ……」
後ろ手に和室の扉を閉めながら、私は誰にも見られないように帰る方法を考えていた。やっぱり、グランド側の門から出た方が距離的にも短いだろうし…
「友香さん」
「きゃっ!?」
透明感ある、今の私にとって絶対に聞きたくない[聞きたいと熱望していた]声が横から掛けられる。
後ろ手に扉に手をついてしまった。
逃げろと強く思うけれども、彼女の目に捕らえられてしまったことへのショックで身が竦んで動けない。
彼女を、私はまともに見ることなど出来ない。
「友香さん、ごめんなさい。」
「そんな……千早さんに謝られるようなことなんて……」
扉に置いていた手にそっと彼女の手が重ねられる。
私の手を扉から優しく離し、両の手で包んでくれる
その熱が、優しさが、凍り付きつつあった、私のココロに温もりを与えてくれる。
貴女という存在に心底怯え
貴女を心底求めていた
胸の奥
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