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シスター
第一章
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 ここでふとあることに思い至った。
「まさか」
 修治の顔に苦いものが走る。
「それはよくないぞ、若しそうだとしたら」
 華子が自分のことを想っているのではないのか。そう考えたのである。
「僕は教える立場だ」
 彼は言った。
「そして彼女は教えられる立場だ。教師と生徒なのにそんなことがあってはやっぱりまずいよな」
 かなり勝手な考えであったがこの時彼はこれを真剣に悩んでいた。
「若しそうだとしたら断ろう。それが彼女の為だ」
 そう決心した。それに相手はまだ中学生だ。何かあったらお互いが不幸になる。彼はそう思い今回は彼女を教え諭して拒むつもりであった。そうした分別はあった。
「よし」
 意を決して教会に入る。外見と中身は大学の教会よりも新しかった。その為悪い印象は受けなかった。
 教会の扉を開ける。するとそこにはもう華子がいた。席の最前列に座っていたが扉が開かれる音と差し込んで来た明かりで顔をこちらに向けてきた。茶色い教会の中がその光によって照らされる。それと共にキリストがかけられた十字架の後ろのステンドガラスが複雑な光を放って修治と華子を照らしはじめた。
「先生」
 華子はその差し込む日の光とステンドガラスの輝きの下で立ち上がった。そして修治に声をかけてきた。
「来て下さったんですね」
「うん」
 修治は意を決した顔で頷いた。何かあってはいけない。
「実は相談に乗って欲しいことが」
「何だい?」
 ここで扉を閉じては何かあった時にまずい。そう思い扉はわざと開けたままにして華子の方へ向かう。茶色い教会の上は白く、それも目に入った。
「実は」
「うん、実は」
 彼は華子の一挙手一投足に神経を集中させていた。
「悩んでいることがありまして」
「何かな」
 ここで彼は華子に問うてきた。次には何を言ってくるか、それに注目していた。
「私、悩んでいるんです」
「どうやらそうみたいだね」
 その時は、彼は覚悟を決めていた。だがそれは声には出さない。
「昨日のことですけれど」
「昨日のこと」
 それを聞いて何かと考えた。
「六組の佐藤君に」
「ああ、彼だね」
 誰かおおよそ察しはついた。野球部の格好いい少年である。この大学からは有名なプロ野球選手も何人か出ている。生憎高等部の野球は大して強くはないが中等部はそこそこ有名である。
「告白されたんです」
「そうだったのか」
 とりあえず自分ではないとわかって内心ほっとした。やはり好きだと言ってきた相手を拒むのは男としてどうかと思うからだ。教師としてはそうしなければならないとしてもだ。そしてこの時修治は教師だった。
「はじめてなんです」
「告白されたのは?」
「はい。そして男の子と付き合うのも」
「それで僕にどうしていいか相談しに来たんだね
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