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シスター
第一章
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華やかな容姿を併せ持っており、小さな顔は白く、そしてシミも汚れもない。鼻も目も整っており、口は小さい。目は大きくて二重の瞳がその顔によく合っている。修治は大学に入って彼女を見るなり心を奪われてしまったのである。
「どうにかならないのかなあ」
 だが告白することはおろか話をすることさえできないでいた。ただ遠くから見ているだけであった。それが非常にもどかしいがどうにもなるものではない。それがかえって彼を悩ませることとなった。熱病は彼を袋小路に追い込んでいたのであった。
 彼は溜息をつきながら礼拝堂を覗き込んでいる。そんな彼に後ろから声をかける者がいた。
「これ」
「は、はい」
 慌てて背筋をピンと立てる。それは年老いた男の声であった。
「この大学の学生さんとお見受けしますが。何の御用ですか」
 それは牧師の声であった。振り返れば丸眼鏡をかけた温厚そうな顔の牧師がそこにいた。そして修治に声をかけていたのであった。
「ぼ、牧師様」
「礼拝堂を覗いておられるようですが。何かあるのですかな」
「い、いえ別に」
 傍目から見てもかなり怪しい態度であっただろう。修治は必死に何かを打ち消していた。
「何でもないです」
「そうなのですか?」
 牧師の声は疑うものではなかったがやはり警戒するものがあった。
「礼拝堂には誰が入ってもいいです」
「はい」
 修治は狼狽を残したまま頷いた。
「ですから。覗かれる必要はありませんよ」
「それはわかっていますが」
「わかっていますが?」
「いえ、何でもないです」
 修治は答えようとしたがそれを止めた。
「何でもないですので」
 そう言ってその場を立ち去った。そしてそのまま礼拝堂から逃げる様にして消えたのであった。
 修治はどうしてもシスターに自分のことを伝えることはできなかった。何と言えばいいかわからず、戸惑っているばかりであった。その名前すら聞いてはいないし、ただ遠くから見て溜息をつくばかりであった。そんな自分がもどかしくて仕方なかったがだからといって何をしていいのかもわからなかった。彼は完全に手詰まりとなっていた。
 そんな彼であったが実は今大学で教育実習の研修を受けていた。場所はこの大学と同じ学園の中等部であった。彼はそこで社会科の実習を受けていたのである。
「それでここは」
 彼は教員の監督の下研修を行っていた。授業自体はつつがなく行い、その評価は高かった。生徒からの評判も上々であった。
「中々いいじゃないですか」
 指導官である年配の教員からも言われた。
「筋がいいというか」
「有り難うございます」
 彼は職員室で話を受けていた。先程の授業がよかったと褒められているのである。
「このままいくと立派な先生になれますよ」
「はい」
「先生になられるのですよね」

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