第百八十四話 木津川口の海戦その五
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「木じゃからな」
「燃えまする」
「それもいと簡単に」
「例え海の上にあってもじゃ」
即ち水の上に浮かんでいてもだというのだ。
「木は木じゃ」
「だから、ですな」
「燃やせばよいのですな」
「そういうことじゃ、舟は燃やせばよい」
それ故にだった。
「炮烙でな」
「では殿」
「炮烙を」
周りは次々にだった、油をたっぷりと浸した布を入れた壺を出した。そしてその壺に火を点ける用意をしていた。
火打ち石も出される、それを見てまた言う村上だった。
「この炮烙こそがな」
「我等の切り札ですからな」
「他の家にはない」
「舟の使い方もその上での戦い方もじゃ」
この二つもだというのだ。
「伊勢や摂津の者達が敵うか」
「それこそ燃えぬ舟でもなければ」
「無理ですな」
「我等に勝つには」
「そうした舟でなければ」
「燃えぬ舟はないわ」
舟は木で出来ているからだ、また言う村上だった。
「そして若しそんな舟であってもじゃ」
「斬り込めばよい」
「そういうことですな」
「それでケリをつける」
「燃えなくとも」
「雨であれば斬り込む」
即ちだ、火が使えぬ場合はというのだ。
「そうしてとにかくじゃ」
「我等は戦い勝つ」
「それだけですな」
「そういうことじゃ。しかし」
「しかし?」
「しかしとは」
「わからぬものじゃな」
目の前の織田家の大軍を見つつだ、村上は笑ってこんなことも言ったのである。
「瀬戸内の西におった我等がここにおるとはな」
「ですな、そのことは」
「わからぬものですな」
「元就様にお仕えしたのもな」
このこともだというのだ。
「そのつもりはなかったが」
「あの厳島の戦までは」
「その時までは」
「うむ、全くじゃ」
厳島の戦でだ、元就は大内氏の実権を握っていた陶晴賢を倒したがその勝利に村上水軍が貢献したのだ。しかし彼等はその頃強くとも只の海賊に過ぎなかった。
誰にも仕えていなかった、だがそれでもだったのだ。
「しかしな」
「元就様にお会いし」
「そうしてでしたな」
「謀事が常の御仁と聞いていたからのう」
事実元就は非常に多くの謀略を使ってきた、暗殺も家中を分裂させることもだ。彼は謀略を駆使して勢力を拡大してきた。
それでだ、村上もだったのだ。
「しかしな」
「しかし、でしたな」
「それでも」
「実際にお会いするとな」
謀神と呼ばれたその彼はというのだ。
「穏やかでな。民のことを常に思われておるわ」
「政は民の為のものであり」
「民は決して傷付けませぬな」
「それにじゃ」
それに加えてだったのだ、元就は。
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