第五楽章 ポインセチアの懐中時計
5-3小節
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クルスニク一族の《レコード》を取り込むと、その《レコード》の分だけ記憶野が上書きされる。
私も何度か会った。上書きされた直後のジゼルに。
――“あ…その…何かご用ですか?”――
私じゃなくて「社長秘書」を、あるいは「社員の誰か」を見つめる、困りきった苦笑。仲がいいと信じていた人に忘れられる辛さを、初めて知った。
骸殻を使い、クルスニクの宿業に弄ばれて、最期には彼女自身が体験してもいない体感が、いつか彼女の記憶の全てになって、私たちとの思い出は塗り潰される。因子化した人間の人生や、経験、技術、死への恐怖、末期の叫びで満たされて逝ってしまう。
「だからこその《記録》エージェント。ジゼル様は、クルスニクの2000年に渡る歴史をただ一人で背負ってらっしゃるのです」
社長はおっしゃった。私たちの世代で《審判》は終わりにするって。《審判》さえ終われば、ジゼルが骸殻を使う必要もなくなる。これ以上、心が崩壊せずにすむって。
ジゼルだけじゃない。ユリウスさんだってリドウさんだって、こんな拷問みたいな毎日から解放されるって。
終わりはちゃんと来る。だから私も、どんなに冷たいだの鉄面皮だの言われたって、あの人たちのために頑張れるのよ。
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