白が愛した大地
[5/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
街を歩けば歌が聴こえた。
毎日のように歌が聴こえた。
男も女も、老人も子供も、気付けば何処かで歌を口ずさんでいた。
この歌を禁ずる、と袁家からお触れが出ても歌が止まなかった。歌を歌って厳罰に処されるなど前例が無い。それでも袁家は禁じたかった。抑えられると思っていた。
初めに罰されたのは元兵士だった。見せしめとして大勢の前で鞭打たれたはずなのに、直ぐに街にはその歌が溢れかえった。
二人目、より厳罰をと触れ回った後……捕えられてより強固に鞭打たれたのは普通の街男であった。
彼は捕まる時にこう言った。
『俺には力が無い。人を殺す度胸も無い。だから歌を歌うんだ。それがあの方に対するせめてもの恩返しだ。袁家が何だ。この声があの方に届くまで、俺達の想いを繋げてやらぁ』
そんな報告を受けて、止まぬ歌に怯えた麗羽と斗詩は……禁ずるのを諦めた。
これ以上厳しくするなら殺すしかない。しかし、殺してしまえばどうなるか、そんなモノは分かり切っていた。
歌はもう止まらない。止まるはずがない。どの街でも、民がその歌を歌っていた。
その歌に宿る想いは感謝だった。
“自分には何も出来ないけれど、せめて言葉で伝えたい”
その歌に宿る想いは願いだった。
“何か一つでも力になれたなら、それはどれだけ幸せでしょう”
その歌に宿る想いは祈りだった。
“愛してくれた感謝を込めて、あなたの幸せを祈っていいですか”
その歌の詩は、民を愛した王に向ける歌。優しい優しいその歌は、愛して守ってくれた王に伝えたい想いのカタチ。
無力な自分達でも出来る事は無いのかと、訴えかける願いの心。
幽州の民は、白蓮の為にこの歌を歌い続けた。
彼の河北動乱では、戦っていた王を助ける為に、その歌に励まされて奮い立った者達も居た。内部反乱は民の手から始まり、幾多の義勇軍が結成されていた。
それを最後に止めたのは……皮肉にも、王と共に戦った兵士達。主の為を謳うかに聞こえる歌を耳に入れつつも、涙を流しながら、奮い立った者達に語った。
『片腕が命を賭けて白馬の王を助けたのはこの家を守る為である。命を散らすな。我らの王が帰還するその時まで』
故に、彼らは歌う事をやめない。
たった一つの歌が、この大地を変えていた。誰も予想出来るはずもない程に強固な絆で結ばれた、“彼女の為だけ”の大地へと。
七乃が着いた時点ではもはや手遅れだった。むしろこんな中でも殺されなかった麗羽こそ、評価していいのかもしれない。
暗殺の類は多々あったらしいが、それも袁家の財力を以ってすれば事前に防げる。
南皮でのように街に出ること無く、麗羽はじっくりと、未来の為に内部改革のみを進めていたのだ。
七乃は
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ