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乱世の確率事象改変
白が愛した大地
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、時にはさりげなく他の者の手伝いもしていた彼女は……もう居ない。
 昔は、主に侍り、敬愛する主に煙たがられながらも付き従い続けた少女が居た。暴走して言葉を並べ立てる癖を聞き取れるモノは一人だけで、それでも愛しい主に想いを伝え続けていた彼女も……もう居ない。
 昔は、へたれたり、呆れられたりしながらも王足らんと在り続けた少女が居た。決して折れず、曲がらず、積み上げる事を辞めず、愚痴をこぼす事は多々あっても、生きている皆を愛し、愛され続けていた彼女もやはり……此処には居ないのだ。

 それがどれだけ恐ろしい事か、七乃だけは……この地を任せられ、街に脚を踏み入れた瞬間に理解していた。
 幾多もの目。怨みを向ける目。憎しみを向ける目。蔑みを向ける目。
 此処に暮らす民のほぼ全てが……敵。自分達を睨む全てのモノが、心の内に怨嗟を宿していた。
 震えた。正しく、心の奥底まで。
 自分のやり方とは真逆。絆よりも実益を優先させて民の心を縛り、ギリギリ行ける範囲を見極めて、非常にシビアな内政を繰り広げてきたのが七乃である。孫呉の大地でさえ、孫策という虎を飼い慣らした彼女のそういった手腕に屈した。
 だから、七乃は自分のやり方を理解しているからこそ、そして孫呉の地を見てきたからこそ、彼女の……“白馬の王”の恐ろしさに気付けた。
 美羽の影として、どんな手段を使おうと、孫堅の威光が覚めやらぬ揚州を鎮め、治めて来た七乃の経験を以ってしても……

――夕ちゃん、無理ですよ。いくら私でも……この幽州の大地は……荷が重すぎます。

 この地を治めきるには、足り得なかった。
 たった一つの州、それも揚州よりも小さな大地である。
 何度も外敵からの防衛を繰り返し、疲弊の極みにあったこの大地。
 そういった地を治める術に長けているはずの七乃でも、もはや抑え切れないのだ。
 此処で暮らす“彼ら”が求めているのは“普通の人”。求めて止まないのは“普通の主”。飛び抜けた才無くとも皆を愛してくれた“普通の王”。
 ずっとずっと守って愛してくれた恩を、“彼ら”は何一つ返せていない。
 そう感じても、長老達が言い聞かせて抑え付ける。それが広がり、皆の耳へと届き得る。

『皆が平穏に生きてくれるのが最高の恩返しだ、と白馬の王なら言うであろう』

 深く繋がったモノから順繰りに絆が広がり、そうやってこの地は回り行く。過去の人々であればそれを人徳と呼ぶだろう。ただ、七乃達の目から見るならば……狂信、と言っていい。
 白蓮がそうなるように積み上げた。いや、白蓮が彼に出会って変わったからこそ、積み上げた努力が華開いた。
 しかして一つ、白蓮以外の手によって、その積み上げられた努力の結晶の絆が引き上げられていた。“ソレ”こそ、この地がある種の狂気に堕ちた原因である。
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