白が愛した大地
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て、と桂花はその紙を机の端に追い遣った。
――休憩は終わり。雛里も頑張っているでしょうし、内政案を進めなきゃ。
筆をとって、さらさらと書簡に書き連ねて行く。
少し無茶をさせるが、雛里が死ぬという心配は全くしていなかった。“彼ら”に任せておけば問題ない……今の桂花は信頼を以ってそう言えた。
机の端、見える紙に浮かび上がる文字は少ない。
ただ、誰かの絶望を表しているその報告が、桂花が大切な友を救い出す為の希望であった。
『袁術が南皮に移動するに当たり、幽州の暴徒の襲撃を受けて行方不明』
紙にはそう書かれていた。
ふと、思い出したように顔を上げ、顎に指を一つ当てる。
「そろそろ……雛里が出した手紙が届く頃かしら……」
それでもやはり雛里の事が気になって仕方ないらしく、これではダメだと頭を振って、桂花はまた、黙々と己が仕事に取り掛かった。
†
わなわなと震える手。滴る汗は滝の如く。
今まで一度たりとて、誰にもこんな醜態を見せた事も無い。
追加を持ち寄った文官にすら気付かずに……ひっ、と上がった声にて漸く……彼女――――七乃はニコニコと笑顔を浮かべた。
「どうしましたぁ?」
普段通りの声音では、もう恐怖は拭い去れない。恐ろしい。悍ましい。人の持ち寄るあらゆる負の感情が、つい先ほどまで目の前の彼女の顔には出ていたのだ。
じりじりと脚を引く文官から目を切って、七乃はゆるりと立ち上がった。
「少し出ますから……後の事はお任せしますねぇ」
横を通り過ぎる彼女に、文官はまた一歩引いた。人外のモノを見るような怯えた目つきで、彼女の怒りに触れないようにと。
廊下は長い。走り出そうか、とも思ったが七乃はやめた。自分が走る時は、たった一人の愛しいモノを抱えて逃げる時だけと決めている。普段は自分を弱くはみせようとも、その時以外は決して余裕が無いそぶりなど誰にも見せたくない。
だからこれは……この殺意は、抑えなければならなかった。
苛立ちの代わりとばかりに、くしゃくしゃと、手に持っていた一枚の紙を丸めた。
クイ、とクラッシュキャップを整えて、彼女はニコニコ笑顔のままで今日も行く。
彼女が歩いているこの場所は何処かと……本当の意味で知っているモノの多くはもういない。
嘗て城にいた文官は方々に左遷され、居残っていたこの地所縁の下位武官達もばらけて端に送り出された。故に、此処はあの場所であってあの場所ではない。
彼女の愛した家は……壊されてしまった。否、袁家は、そうしなければならなかった。
昔は、悪戯が好きで、飄々としながらも誰かに纏わりついていた女が居た。やれメンマだ、やれ酒だと言いながらも、与えられた仕事をこなし
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