第6章 流されて異界
第103話 試験直前
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られて仕舞う俺の口。
そうして、
「あなたを召喚したのはわたし」
そんな事であなたが気に病む必要はない。
まるで俺の心を読んだような内容の言葉。しかし、それならば、
「なら……。出来る事ならば、オマエさんの表情が曇る理由を教えて貰いたいんやけど」
確かに俺は、普通の人間に比べたら周囲の人間の考えて居る事が分かり易い能力は持っています。しかし、別に相手の思考を読んでいる訳ではないので、相手が陽の気に包まれているのか、それとも陰の気に沈んでいるのかが判るだけで、何故、その気を発して居るのか、……の理由について完全に理解出来ている訳ではありません。
相手の発して居る雰囲気、その前後の会話の内容や行動から相手の考えて居る事を予測しているに過ぎない状態。俺の考え過ぎの事も有れば、まったく的外れな想像を行って居る事さえ珍しくはないと思います。
澄んだ……。湖のように深く澄んだ瞳で見つめる長門さん。まるで俺の向こう側。心の奥深くまで見通せるかのようなその瞳。そして、その瞳に相応しい気。
そう。それは静謐な眼差しだった。人間では有り得ないほどの……彼女により相応しい静か過ぎる眼差し。
陰気に沈んだ雰囲気ではない。これは、どちらかと陽に分類される雰囲気。
そうして……。
「必要ない」
しかし、次の瞬間に彼女は誰にでも判る仕草で首を横に振る。ただ、その時に彼女が発して居る雰囲気は矢張り陽に分類される雰囲気。仕草は拒絶を意味する仕草であったのだが、しかし、彼女の発して居る雰囲気自体は拒絶とは思えなかった。
これは――
「あなたは思い出してくれる」
箱。神に因って作り出された女性――パンドラが開いたとされる箱。もしくは甕。その中に封じられた有りとあらゆる災厄の中で最後に残った存在。彼女の名前の中に籠められた呪を感じさせる物。
今、彼女……長門有希が発して居るのは『希望』で有った。
但し……。
「いや、しかしそれは――」
但し、ゼウスが箱に詰めて居た最後の災厄は『偽りの希望』の可能性も有る。この偽りの希望が有るが故に、人々は世界に対して完全に絶望する事が出来ず、空虚な希望を抱きながら未来へと向かって進まざるを得なくなる……と言う呪い。
これを現在の状況に置き換えると、
俺と、長門有希との間に絆を結んだ異世界の俺との関係が、魂の段階まで同一の異世界同位体と決まった訳ではない、と言う事。
長門さんが強く望み、俺の事を信用したとしても、魂に刻まれた記憶と言う物が存在しなければ――
そう考えた刹那。
微かに漂う花の香り。いや、これはこの家で使っているリンスの香り。そして、さして分厚いとは言えない胸に感じる温もり。
行動は一瞬。しかし、月下。
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