第6章 流されて異界
第103話 試験直前
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く、かつてのハルヒの事を知らないのは事実。そして、その事を気付かせない為に吐いた嘘で、更に彼女を騙す事と成るのですが……。
何時か。本当に何時の日にか、彼女にも本当の事を――
「それなら――」
未だ完全に俺の事を信用していないのか、強い瞳で睨むように何かを言い掛けるハルヒ。
しかし……。いや、矢張りと表現すべきですか。矢張り、その中に感じる僅かな期待。信用したいのでしょう、俺の事を。
いや、それは今の俺ではなく、俺の異世界同位体の事を、なのでしょうが。
これで何度目に成るのか判らないぐらいの嫉妬心。俺ではない誰か。多分、存在する時間と空間が違うだけの俺自身に対して覚える嫉妬の心を呑み込む俺。
その僅かな心の隙。その瞬間。
「それなら、あんたと交わした一番大切な約束。それを言ってみなさいよ」
意を決したようなハルヒの――
そう考えてから、今少し彼女の発している気を深く感じる。そして、軽く首を横に振って、直前の考えをあっさりと否定。
何故なら、何か深い考えが有って今の台詞を口にした訳では無さそうな事が判りましたから。
どうにも勢いに任せて口走っただけ。後先の事など一切考えていないような雰囲気を今の彼女は発して居ましたから。
ただ……。彼女との約束……。
「もし、オマエが――」
ひとつの文字ごとにしっかりと発音するかのように、ゆっくりと意味あり気に言葉を紡ぎ出す俺。
但し、俺本人には、彼女が言う一番大切な約束が何か、など判ってはいない。すべては何モノかが俺の口を利用して発して居る言葉だけが頼りの状態。
いや、まったく知らないのかと言うと、実はそうではない。心の奥深くから湧き出して来る泡の如き記憶の欠片。この欠片に残された景色は俺が今通って居る高校の玄関。正面に見えるのは真新しい三階建ての校舎。丁度、その中心にガラス張りの大きな出窓。その向こう側に透けて見える階段。そして、校舎の一番高い場所……記憶の中の俺の足元に見えるのは時計台。
時間は夜。暗い夜空には星や月の輝きすらなく――。
正面。いや、宙に浮かぶ俺の足元。校舎の玄関先には奇形の王アトゥの姿。
そして俺の腕の中には――長門有希。
これは――
これは、俺が六月に経験した、湖の乙女との出会いの事件とまったく同じシーン。
あの夜。トリステイン魔法学院が謎の異界化現象で覆われ、モンモランシーの邸宅に泊めて貰った夜に見た夢の光景。
「――本当に世界を――」
俺が経験したあの夜のシチュエーションから考えると、これから口にする言葉は実際の言葉として発せられた物ではなく、【念話】にしてハルヒに伝えられたメッセージ。それを現実の言葉にして彼女に伝えると言う事は別の意味
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