十二幕 これからはずっと一緒だよ
2幕
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惑星儀の中にいるような気分にさせられる球体の中には、エルを連れたビズリー、そして浮遊するクロノスがいた。
「お姉ちゃんっ」
再会の喜びと、様子がおかしい姉への心配が、声の中で入り混じる。
エルがまるで幽鬼のように顔を上げる。
フェイは悲鳴を上げかけた。エルの顔の右半分は黒い痕に侵され、右目は赤く染まっていた。
フェイたちがエルと別れていた短い時間に、それほどまでに時歪の因子化が進んでしまっていたのだ。
エルの目がこちらを捉えた瞬間、生気を取り戻し、見開かれた。
「ルド……っ!」
エルが呼ぶより速く、クロノスがビットを射出し、エルとビズリーを捕えた。
ビットは球形を描き、黒いボールのようになって上空に浮いた。
フェイはすぐさまクロノスを睨みつけた。
「お姉ちゃんを出して!」
フェイには分かっていた。クロノスが異空間にエルたちを閉じ込めたのだと。
「それはできん。あの娘には時歪の因子化してもらわねばならないからな」
カウンタードラム――オリジンがいる〈審判の門〉を開く前に、エルが時歪の因子化したなら、人間の負けは確定する。そうなればクロノスは、地上を瘴気に溢れた世界に変え、人間をマナを吐くだけの〈物体〉に変えると宣告した。
「何でここまで邪魔をするんだ! 俺たちを、人間を試したいんじゃなかったのか!」
「もはや試すまでもなく〈審判〉の結果は明白だ。ゆえに我は、あの扉の向こうから我が友を救い出す」
――ここにも、いた。
痛み続け、苦しみ続けた精霊と、それを見るだけで何もできずに来た精霊が。
(精霊は人にイジワルでイタイ思いさせるだけで、苦しんだり泣いたりしない存在だと思ってた。でも、今わたしたちの前で、オリジンと世界を引き換えにしようとしてるクロノスは)
また一つ。痛みを伴ってフェイは理解した。
理解した上で、クロノスの悲願を踏み躙ろうと決めた。世界より、どこの誰より、小さな姉のために。
「この苦痛を以てオリジンの苦痛を知り、己が罪業を思い知るがいい」
クロノスが12のビットを展開し、後背に巨大な歯車を出現させた。
「だったら」
ルドガーが二つの懐中時計を取り出した。
「俺の、俺たちのエルへの想い、今からお前に教えてやるよ!」
ルドガーが真鍮と銀の時計を使ってフル骸殻に変身し、クロノスに向かって跳躍した。
クロノスが放ったビットを撃ち落としながらも、跳躍の勢いは消えず、骸殻の槍がクロノスを貫く――
凄まじいエネルギーとエネルギーのぶつかり合いに、〈カナンの地〉が揺れた。
クロノスは両腕の刃を交差させた一点で、ルドガーの槍を止めていた。
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