第一章
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第一章
真面目は可愛い
佐藤唯は一人称が変わっている。
自分を『僕』というのだ。これが大きな特徴だった。
黒髪を肩まで伸ばしそれを濡らした様子に首に添わせている。目は大きく黒い部分が多い。やや吊り目である。厚い唇で全体的に細い身体をしている。
学校にいる時以外は常にズボンである。そんな彼女だが性格はというと。
「だからそれは駄目だよ」
「えっ、駄目なの?」
「うん、駄目だ」
その完全に男の子の口調での言葉である。
「校則にないからな。駄目だよ」
「ちぇっ、唯ちゃんは厳しいわね」
「全く」
「僕が厳しいんじゃない」
彼女が言うにはそうである。
「校則にあるからだ。だから守らないといけないんだ」
「そういう考えが厳しいっていうのよ」
「ねえ」
「全く」
友人達はまるで軍隊の憲兵の如く規律に五月蝿い唯に閉口するのが常だった。見れば彼女の左手には風紀委員の腕章がある。これもまた憲兵のそれに見える。
その憲兵の様な彼女と同じ風紀委員なのが青道比呂である。背は高く肌はやや浅黒い。癖のある黒髪に強い光を放つ目、それと厚く小さい唇の顔は彫もあり何処か日本人離れしている。彼もまた風紀委員だ。
しかし比呂はというとだ。特に口煩くもない。その彼の言葉はだ。
「最低限の校則を守っていればいいじゃないか」
こう言うのである。彼はだ。
「別にそれで世の中が変わるわけじゃない」
「いや、それは違う」
そしてそれにいつも反論するのが唯だった。
「皆が規則を完璧に守らないと世の中は乱れるんだ」
「世の中って学校だけじゃなくか」
「そうだ」
まさにその通りだというのである。
「だから規則は守らないといけないんだ。何でも完璧にだ」
「厳しいな」
その唯に対する比呂のコメントである。
「またそれは」
「厳しくしないと駄目だ」
まさに憲兵の言葉である。
「人は規律を守らないといけないんだ」
「規律規律と言うがだ」
そして比呂もその唯の反論する。
「あまりそう五月蝿くても駄目じゃないか」
「駄目だというのか?」
「そうだ。人には息抜きも必要なんだ」
比呂の言葉は誰もが思うことだった。
「そんな軍隊みたいなことはだ」
「あれ位でないと駄目だ」
しかし唯はまだ言うのだった。
「かつての日本軍の様に厳格でないとだ」
「時代が変わったんだが」
「時代が変わっても変わらないものもある」
この辺り実に頑固である。
「誠は変わらない、絶対にだ」
「真面目だな」
素直な賞賛の言葉ではある。
「唯は本当に」
「真面目で悪いか」
「悪いとは言っていない」
比呂もそれは否定しない。ありのままの言葉である。
「それはだ」
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