終わった世界で
三 楔
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にも鋭く。予想を遥かに超える速度を以て私の体を断ち切らんと迫る、刃を寸でで。背後へ大きく跳んで、避け。
「っ……」
振り抜かれた刃を避けると同時に、彼へと放った銃弾。外す訳にはいかず、震える体を押さえ付け、集中し。しかし、撃ち抜かれたところで怯むことさえ無く。囲む、他の兵士達の発砲。その銃弾もが鼻先を掠めていく。
数が多く。止まれば、きっと。一瞬で切り伏せられ、蜂の巣にされることだろう、と。しかし。
これ以上、下がることも許されず。背後は、既に。彼等が立ち塞がっていて。避けることはもう、出来ない。迫る切っ先は、私の体を刺し貫かんと。
「……なら」
声を零す。避けることは出来ない。その切っ先は私を捉え、この、体を貫くのだろう、と。
諦め。刃が、私へと届く。その、瞬間に。
私は、両手の。銃を、捨てて。力を、抜き。
腹に。触れる、切っ先を。背まで貫き、深々と埋まる、その鋼を。
左手で。その、刃を。彼等と同じ、アンデッドの体。人間離れしたこの力で。掴み、握り、力任せ、また。私の体へ更に深く、深く埋め。
刀を握るその手を。掴み、握り締めた。
「捕、まえた……ッ」
赤く赤く。零れていく粘菌。構いもせずに、腰から下げた。最早、肉切り包丁のそれ。あまりに無骨なナイフを抜き。
その、首を。彼の首を。逆手に持った刃を以て、力の限り、切り裂いた。
私の粘菌、彼の粘菌。足元、赤い水溜りに。彼の被った軍帽。あの時私の失くしたものと同じそれが、落ちて。
傷付かずに。汚れずに。終わらせるのは諦めた。彼等だけを傷付けて。彼等の体だけを汚して。私だけ、綺麗なまま。生きることなんて出来はしない。
噴き上がる赤に体を濡らす。赤く赤く。彼の血、私の血、忌々しい粘菌を。この身に浴びて。嘗ての仲間へ、刃を振るい。
もがこうと、抗おうと。私の中に埋まった刃が、私の体を傷つけようと。掴んだその手を離すことなく。ナイフを振り上げ、彼を。裂いて、裂いて。周りの兵士達の銃弾、私の切り裂く彼まで巻き込み撃ち出されたその銃弾が、私の手を撃ちぬき、ナイフを浚えば。
握り締めていた彼の手を離す。手の中で。腹の中で。暴れ続けた刃は、私の腹、左へと向けて、切り裂き。拘束を抜け出し、外へと逃げた鉄に、構うことさえ無く。彼の体を突き飛ばすように、私自身が押されるように。二人の間、距離を取り。取ると同時に、空いた右手は。彼にとっては、死の手となって。
肩から提げた対戦車ライフル。片手で構え。構えなど、滅茶苦茶に。馬鹿げた力、体の作りに物を言わせ、そのまま、彼へと突きつける。
迷いは、生まれ。しかし、呑みこみ、躊躇することなんて、無く。引き金を引いて。
彼の、体を。その身を、散らした。
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