終わった世界で
三 楔
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壊したくなかった。死んでまで、その体をネクロマンサーによって弄ばれ。こうして、只。無理やりに動かされる彼等を。共に生きた彼等を。傷付けたくなんて、無かった。けれど。
彼女に突き立った刃。彼女が壊される姿を。彼女が傷付く姿を、見て。自分の思いを抑え。最後。実際に、貫かれるその瞬間まで。私と共に在り続けてくれた。彼女を。
壊されたくない。その思いだけが、他の思いを置き去りに。体を突き動かして。
何も。振り切ることなんて出来ない。心の中は滅茶苦茶で。泣き喚きたい、彼女を抱き締め、胸を借りて。溢れ出す涙を堪えることだって止め。只々、泣いて、この思いを吐き捨てたい。けれど。
けれど、今は。今だけは。彼女を壊されたくない。壊されたくないと。その思いだけを見据えて。湧き上がる他の全ての思いから目を背け、銃を引き抜く。
戦いが終わるまでだけは。弱い自分を、殺さねばならない。弱い己に、克たねばならない。
「ごめん、マト。我侭ばかり」
彼女は、少し、驚いたように。私を気遣う視線と言葉を送ってくれて。
「リティは、それでいいの?」
「うん。大丈夫。あなたが居るなら、これでいい」
笑みで返す。彼女が、また、手の甲で。私の涙を拭ってくれる。
「最後まで、戦って。ネクロマンサーを倒して。こんな物語、全部終わらせる。だから、それまでは」
一緒に居て欲しい、と。また。彼女に願い。願う私へ、彼女は。
小さな笑みで。綺麗な笑みで、答えを返して。
もう。迷わない。彼等を壊したくない思いは、変わらず。けれど。
悲しみながらでも。この手で彼等を壊しながらでも。それで、心を軋ませようと。彼女が居るならば、まだ。先へと歩んで行ける。全てを終わらせるため。それまでは、戦い続けることが出来る。
「マト」
巨大な扉。部屋の奥、巨大な黒い扉が、左右へ。壁へと呑まれ、開いていく。
開き切るのを待つことさえなく。扉と扉、その隙間。這い出し、掛けられた、巨大な腕、怪物の腕。
その、姿を見ても。今なら、怯むこと無く。彼女と共に、立ち向かっていける。
私へと、目配せをし。扉の先から現れる、その巨体へと。今にも駆け出さんとする、彼女へ。
「ありがとう」
言葉を。伝えなくてはならないその言葉を、彼女へと投げかけ。
振り上がる軍刀。駆け出した彼女を叩き切らんと白く輝く、その剣を。構えた腕を撃ち抜いて。獣の足で巨体へと走る、彼女の姿を見送った。
「ごめん。こんなこと。すぐに、終わらせるから」
マスクの下。読み取れない表情。マトから、引き金を引いた私へと矛先を変えた彼へと、更に、銃弾を――
放とうと。した、時には、既に。
彼の刃、煌きは迫り。あまりにも速く。あまり
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