終わった世界で
三 楔
[5/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ティ」
「ごめん。ごめん……でも、私、どうすればいいのか、もう……」
溢れるそれを。溢れて落ちるだけのそれを。視界をぼやかせるそれを。止めることも出来ない。泣いてばかりで、何も。何も出来ない。私の、前で。
彼女は。私の肩に、優しく。その手を置いて。
「マト……?」
「いい。大丈夫だから。私も、これ以上。あなたに苦しんで欲しくない」
少しだけ、肩に力を込められ。優しく押される。彼女もまた、ゆっくりと膝を曲げて、私もそのまま、それに倣い。
膝を付く。この場に。戦場の真ん中。二人、座り込んで。
「壊されるよりも、壊す方がつらいなら。それで、心が壊れてしまうなら。もう、これ以上戦わなくてもいいのかもしれない。心を持ったまま死んでいけるなら。此処で。おしまいにしても、いいのかもしれない」
彼女は、言う。私を責めることも無く。只々、優しく。痛いほどに優しく。
足音が近付く。囲まれる。それでも、彼女も。私も。その場に、座り込んだまま。動くことさえせずに。彼女は。怖くないのだろうか。私は。私は。
怖くて、仕方が無いというのに。このままでは。私の大事な。彼女まで。
「マ、ト……私なんて、放って」
「無理よ。あなたが居ないなら、私も。こんな世界で生きていく意味なんて、ない」
でも、と。彼女は、続けて。
「こんな世界でも。こういう終わり方でも。あなたが居るならそれで、いいかな」
笑顔。いつもの、不器用な作り笑顔ではない。その笑みは。彼女の笑みは。
本当に、綺麗な。きっと。心からの、それ。今までも、ずっと。綺麗な笑みを浮かべる。私と共に居てくれる。彼女が大切だと、思っていたはずなのに。
今更。彼女だけは。私が、どうなっても。私の思いを塗り潰しても。それで、心が壊れても。
守りたいと。そう、思い。
鈍く輝く刃。彼女の腹から突き出して。彼女の赤に濡れた。彼女を傷付けた。刃を、見て。
気付けば、手を伸ばしていた。赤く、赤く。握っていた手を離し、離す代わりに、左手、彼女を抱き締め。右手は、彼女の背から、腹へと貫くその鈍色、繋がる腕、体。死者の体へ。
気付けば、爪を立てていた。深く、深く。マトのそれには、遠く及ばない。しかし、それでも、アンデッドの体。ドールの力。対する相手は、雑兵の一。
爪は、指は、肉へと突き立ち。そのまま。
引き裂き。抉り。指の先、広がる赤。骨さえ砕き。彼女の体を抱き締めたまま、力任せに。兵士の体。彼の体を切り裂いて。
「……リティ……?」
止まることさえ忘れたように。溢れ続ける涙が、その赤色を滲ませる。
「マト、マト……ごめん、ごめん……っ」
彼等を。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ