終わった世界で
三 楔
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の笑みに。
胸が痛む。彼女が、その苦しみを。吐き出す前に遮ってしまった。けれど、これ以上。彼女が自身を責める言葉を、聞きたくなくて。言葉にして、欲しくなくて。
「……大丈夫。相手もあなたを只憶えていただけ。何の意味も無く、あなたの姿を見て、名前を呟いていただけ。それか、造物主がそういう風に仕掛けただけかもしれない。あなたを苦しめるために」
「……そう、ね。そうよね。きっと、きっと」
止まっていた足が、再び前へと進み出す。私もまた、彼女の歩みに合わせて。
歩きながらも彼女の顔は、晴れず。彼女の心は、晴れないまま。私との会話、対話では。心に植え付けられた、溜りゆく狂気を。彼女の、彼女自身への疑念を、払うことは出来ず、それを為すことの出来る言葉も知らなくて。
何も出来はしない。私には、何も。
「……、マト……」
「……うん」
名前を呼ばれる。私が呼んだように。怨敵によって付けられたその名を。その名前しか、彼女は知らない。私自身も、また。
「……ごめん。もう、暫く。手、握らせて」
向けられた笑みは。引き攣ったまま、無理して作ったそれと、自嘲。
微かに震える。小さな手。私の醜いそれを握り締める、細く、白く。死体であるとは思えないほど。それは、そう。正に、人形のよう。そんな、そんな。綺麗な手が。綺麗な、彼女が。
こんな時だというのに、酷く、羨ましくて。そして、何より大切な――
「――握ってて。いつまででも。そして」
そして。願うならば。ずっと、離して欲しくない、と。彼女を苛む不安を払う事も出来ない私を。もしかすると、あの子の抜けた。あの子を失った分の空白、欠落を。埋めてしまいたいだけなのかもしれない。私の抱くこの思いは、そんな、浅はかなものなのかもしれない。醜い私を、更に、変わり行く私を。そうやって、求めてくれる彼女に甘えた。けれど、それでも。彼女が私を。醜い私を。必要とし続けてくれるならば。
この手を。握り返すことも出来ない、私の手を。握り続けていて欲しい、と。それだけを願い。
待ち構える、明かりの中へと。この歩を、進めた。
◇◇◇◇◇◇
明かりの中。開けた視界、広い円形の空間。無数のライト。足元の線路は断ち切られ、明らかに材質の異なる床。後から線路を潰して設けた、継ぎ接ぎの建設。
視界の先には、灰色の壁に貼りついた、黒い、巨大な扉。そして。
「リティ」
思わず。彼女の手を強く握る。
「辛いなら、リティは手を出さなくてもいい」
彼女の言葉に。思わず、縦に振りかけた首を。振りたい、首を。小さく、横に振って答え。
扉の前に並ぶ。軍帽を被り、軍服を着て。軍刀を携えた一体のアンデッドに率いられて立つ、十体の人型。見覚
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