終わった世界で
二 置き去り
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銃弾を撃ち出した彼女へ。礼を言う暇さえなく、その、拉げた装甲板、巨体。アームの下を掻い潜るように。二体目のそれから逃れるように。姿勢を低くして、跳び。もう一体の鉄塊、私を狙って振り下ろされたアームが、勢い余って。銃弾を受けたリフトバイスを凹ませる音、音と共に。
損傷は激しく。火花の散る音、不自然な振動。壊れかけの機体、覆う鉄板へと。私の爪を。深く、深く、突き立て、裂いて、引き抜いて。
完全に、動きを止めた。一体のリフトバイスから跳び退き、体を離し。離すと共に、地に足を着けると共に。視界から消えたキメラの姿を。探せば。
天井、乾いた音。咄嗟に、足を着いたばかりの地を蹴り。蹴ったばかりのその床を、彼女の。鋭く長い爪が抉った。
「余所見ばっかりして。もっと私に構ってよ」
愉しむように。愉快げに。彼女の声、鳴り響く銃声と肉の散る音、機械の爆発音、炎の輝き。照らされた彼女の顔は、やはり。
今にも。耳まで避けてしまいそうなほどに喜悦に歪んだ、私の顔で。
「お前は、私の何なの……ッ!」
爪を振るえど、その笑みは崩れず、避けられて。他のアンデッドよりも高度な自我、知能。私たちのそれと変わらないそれは。戦い難くて仕方が無い、と。私の首を抉りに掛かった、その爪を。腕で庇い、弾いて。裂けた皮膚から跳ねた血も、僅か。再生し続ける体は、その爪を深くまで通すことを拒み。
キメラと共に。殆ど同時に。私の背後、振り下ろされた鉄の腕。リフトバイスのその腕から……威力は、馬鹿に出来ないものの。緩慢な動作。武装も少なく、恐らく。元々戦闘用に作られたものではないのだろう……灰色の床、血に濡れた床を叩き砕く、それから逃れ。
「酷いなぁ。この顔を忘れた? お前の顔なのに」
彼女の言葉。亡者の呻き。機械の音。小規模な爆発音。リティは無事だろうかと、胸に爪を立てた不安を、聞こえた銃声、その音を以て掻き消して。リフトバイスから逃れると共に距離を取ったキメラへと向かい、跳び。彼女のその、戯言と共に。半ば握りつぶすように、その腹を抉り。
「戯言を……ッ」
「何が戯言さ。正真正銘、お前の顔だよ」
飛び散る血。しかし。
やはり、浮かぶのは、笑――
「っ……」
脇腹、硬い衝撃、押しつぶされたように。胸に、空気が詰まり。彼女の笑みは、視界から外れ。
硬い、硬い柱へと。体が叩きつけられて。叩きつけられたその時になって、それが。背後から。リフトバイスの一撃を受けたからだと、理解して。
理解したときには。もう。打ち飛ばされた私を追った、その異形。虫の足、絡みつくように、捕われ、二本の腕、傷付いた体の自由を奪われ。
「お前は終わり。お前は居なくなる。これで、私が――」
白い明かり。逆光。
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