暁 〜小説投稿サイト〜
或る短かな後日談
終わった世界で
二 置き去り
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機械を止める。二つのそれは、リフトバイス、と言うらしい。

「手短にね。別に、あんた等がゾンビに引き裂かれながらでもいいなら、ゆっくりでも構わないけどさ」

 愉快そうに笑う。私の顔で笑う、少女へ。

「あなたは、何? ……私と、何か関係があるの」

 短く。問う。問えば、彼女は。

 愉しそうに。より、顔を。笑みを、歪ませて。

「私は……キメラって呼ばれてる。高度な自我を与えられたネクロマンサー様の創造物の一つ――」

 サヴァントだよ、マトお姉様。と。彼女は。彼女は、嘲り。そう、言って。
 その言葉に。込められた意味を理解することさえ出来ないまま。飲み込むことも、出来ないままの、私は。

 私目掛けて走り出す、リフトバイスの駆動音。アンデッド達の呻き声。そして、彼女の。キメラの。狂ったような笑い声に。

 混乱する頭。理解が追いつけず。只々、頭の中で。音が、音が、溢れ返り。私の考えを邪魔するように。私の体を縛るように。敵の立てる音、笑う声、嗤う声――


 声を。私の体に纏わり付いて這い回る。音を、声を。背後、鳴り響いた一つの銃声。聞き慣れた。何度も聞いた。

 彼女の音が全て、全てを。掻き消して。

「……マト」

 声は、静かに。再び。地下の空気を震わせ響く、無数の音の中でも尚、はっきりと。

「行こう。……大丈夫だから」

 言葉は、優しく。恐怖も無く。怒りも無く。只々、静かで。優しくて。

「……うん。大丈夫。後ろ、任せるね」

 迫り来る亡者の群。振り向いたところで、彼女の。リティの姿は、もう。群がるアンデッドの壁に阻まれ見ることすらも叶わないだろう。
 此処に居る彼等、群がる彼等の服装は。破れ、汚れ、襤褸となってはいるものの、リティの服装とよく似ていて。生前の彼女と関係が在るのかも知れない。アンデッド達を解体することで、心を痛めることになるかもしれない、と。しかし、今は。
 迫り来る異形、私を姉、と、呼んだ。私にそっくりの少女。深い意味など無いかもしれない。顔も、また。単なる、造物主の嫌がらせかも知れない。けれど。

 胸のざわつき。私に巣食う蟲の蠢きだけではない。この、不快な感覚。それでいて決して、手放したくない。手放すわけにはいかない。近付く。私の記憶の鍵を。鍵を、求めて。

 手を伸ばした。私へと群がった。死者の群れを、壁を、強引に引き剥がし、打ち破り。キメラの元へと、地面を蹴る。
 が。

「邪魔っ……」

 私の行く手を阻み。アームを振り上げ迫る、二体のリフトバイス。鉄の腕は予想以上に長く、回避するには近すぎて。咄嗟に腕で体を庇えば。
 今にも。私へとその鉄腕を振り下ろそうとしていたそれが、その装甲が。轟音と共に撃ち貫かれ、一瞬、止まり
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