第2部 風のアルビオン
第1章 秘密の小舟
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ルイズは自分のベットの上で、夢を見ていた。
トリステイン魔法学院から、馬で3日間ほどの距離にある、生まれ故郷のラ・ヴァリエールの領地にある屋敷が舞台だった。
夢の中の幼いルイズは屋敷の中庭を逃げ回っていた。
迷宮のような植え込みの陰に隠れ、追っ手をやり過ごす。
2つの月の片一方、赤の月が満ちる夜……。
「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの?ルイズ!まだお説教は終わっていませんよ!」
そう言って騒ぐのは、母であった。
夢の中でルイズは、出来のいい姉たちと魔法の成績を比べられ、物覚えが悪いと叱られていたのであった。
「ルイズお嬢様は難儀だねぇ」
「まったくだ。上の2人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに……」
ルイズは悲しくて、悔しくて、歯噛みをした。
召使たちは植え込みの中をがさごそと捜し始めた。
見つかる、と思ったルイズはそこから逃げ出した。
そして……、彼女自身が『秘密の場所』と呼んでいる、中庭の池に向かう。
そこは……、ルイズが唯一安心できる場所だった。
あまり人の寄り付かない、うらぶれた中庭……。
池の周りには季節の花々が咲き乱れ、小鳥が集う石のアーチとベンチがあった。
池の真ん中には小さな島があり、そこには白い石で造られた東屋が建っている。
島のほとりに小舟が一艘浮いていた。
船遊びを楽しむための小舟であった。
しかし、今ではもう、この池で船遊びを楽しむものはいない。
姉たちはそれぞれ成長し、魔法の勉強で忙しかったし、軍務を退いた地方のお殿様である父は近隣の貴族との付き合いと、狩猟以外に興味はなかった。
母は、娘たちの教育と、その嫁ぎ先以外、目に入らない様子であった。
そんなわけで、忘れ去られた中庭の池と、そこに浮かぶ小舟を気に留めるものは、この屋敷にルイズ以外ない。
ルイズは叱られると、決まってこの中庭の池に浮かぶ小舟の中に逃げ込むのであった。
夢の中の幼いルイズは小舟の中に忍び込み、用意してあった毛布に潜り込む。
そんな風にしていると、中庭の島にかかる霧の中から、1人のマントを羽織った立派な貴族が現れた。
年の頃は16歳ぐらいだろうか?
夢の中のルイズは、6歳ぐらいの背格好だから、10ばかり年上に見えた。
「泣いているのかい?ルイズ」
つばの広い、羽根つき帽子に隠れて、顔が見えない。
でも、ルイズは彼が誰だかすぐに分かった。
子爵だ。
最近、近所の領地を相続した、年上の貴族。
夢の中のルイズは、ほんのりと胸を熱くした。
憧れの子爵。
晩餐会をよく共にした。
そして、父と彼との間で交わされた約束……。
「子爵様…いら
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