2ndA‘s編
第十三話〜孵化〜
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規定を設けていることは明白であった。
ライの視界にも瓦礫と埃で蛇に埋もれた夜天の書の姿は見えなかったが、けた違いの魔力と魔力光からその位置を正確に把握するのは簡単なことであった。
「アクセルドライブ」
元来であればカートリッジを使用する事が前提の加速魔法の始動キーを口にする。
カートリッジを未使用の為にいつもよりも多く魔力が持っていかれる感覚にダルさを覚えるが、そんな物を気にする程ライはヤワではない。
加速を使用し瓦礫を起点にした鋭角的な機動を行っていく。それは遠巻きから見れば雷の軌跡に似ていた。
夜天の書に接近するため次の瓦礫に移る。足場が砕けた。
(どうせ、残骸だ)
次の瓦礫に移る。小さいが鋭角な瓦礫がライの頬を深めに抉る。
(視界は塞いでいない、特に問題はない)
次の瓦礫に移る。自身の中の魔力が残り僅かである事を感覚的に理解する。
(他に策もない。後のことなど考えるな)
次の瓦礫に移る。駆け抜けるための魔力を確保するためにバリアジャケットを解いた。
(前を見ろ。ただ目的を達成するためだけの思考を持て)
次の瓦礫に移る。移る。移る。移る。
そして、とうとう目標である夜天の書に肉薄できる位置にある瓦礫に飛び移る。
肉体が悲鳴を上げる。魔力の急激な消費に体全体が虚脱感を覚えるが舌を噛むことで意識をはっきりさせる。
極限に集中しているせいか、やけに周りの光景がゆっくり見える。こんな時にそんなどうでもいいことを客観的に考えている自分の頭に呆れながらも、ライは夜天の書に手を伸ばし最後の跳躍を行う。
『マスター!!右舷上方!!!』
自分の足が瓦礫からもう離れたのか、それともまだ離れていないのか。それを確認することもできずに脳裏に響いた警告通りに眼球運動のみで右側に視線を向ける。
その視界に広がるのは、自分が足場にしている瓦礫と同じ色をした“壁”。
足場と自分を簡単に隠すことができるほどの大きな壁がこちらにまっすぐ向かってきていた。
(あ、避けられない)
一瞬逸れた思考は致命的であった。否、例え思考が逸れていなくてもその瓦礫からの接触を回避することは今のライにはできなかった。
夜天の書を相手にコンディションが万全でない状態でここまで肉薄できたこと自体、幸運に幸運を重ねた奇跡に近い。だが、最後の最後で彼は運に見放された。
(ここまで?)
どこか他人事のようにそんな無責任なことを考える自分の思考に怒りを覚える暇もなく、問題の瓦礫はライに刻一刻と近付いてくる。
目を瞑ることもせずにそれを凝視するしかできない自分に呆然とし始めた頃、ソレは瞬いた。
瓦礫のほぼ直上からの収束砲。
それがライに迫っていた瓦礫を蒸発させた
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