終わった世界で
一 雨と心音
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くすことなど無い、と。
そんな保障は。何処にも無い。足を失っていなければ、今、すぐにでも。彼女の元へといけるのに、と。はみ出した綿を、引き摺り、引き摺り。彼女の、足元、たどり着いて。
「マ……」
両手を垂らしてぼうと。何処を向いているのかも知れず。何を考えているのかも知れず。只々、肉蛇、その群の中央に埋もれ、立ち尽くす彼女の足に縋りつけば。
彼女は。縋りついた私の重みに耐えかね膝から落ちて。赤く染まった床に倒れ伏し。
「マト! ねえ、マト! 起きて、ねえ、ねえってば!」
うつ伏せに倒れた彼女の体に縋りつき。仰向けに寝かせ、腹から溢れて蠢くそれを、それらを掴み、掻き分け、掻き分け、彼女の顔、彼女の顔を、覗き込めば。
目は、虚ろに。半開きの口。意識を失ったように。しかし。
私達は、アンデッド。私達が動きを止めるのは、完全に解体された時、もしくは。
体を動かす意志を失ったとき。完全に、心が壊れた、その時だけ。
「リ、ティ」
「マト! 平気なの!? 何処か怪我をしたの!? まって、すぐに手当てを……」
「違、う……違う」
分かっている。分かっている。けれど。
彼女の体は。私のそれよりもずっと強靭で。些細な傷は勝手に塞がり。彼女が床に伏したまま。動けない理由は、他に在って。
けれど。私に、他に。出来ることなんて、無い、無い、無くて。何も、何も出来ないなんて。認めたく、無くて。
「リティ、私、私、もう……」
「大丈夫だから! 少し休みましょう、ね、落ち着くまで休んで、その間は私が守るから、安全だから、ね」
「違う!」
体が跳ねる。彼女の声は。鋭く、そして。
そして。酷く、悲しそうで。
「……ごめん。怖いよね。ごめん。ごめん……」
張り上げた声も。私の顔を見た途端……私の。彼女の声、張り上げた声、その声を聞いて歪んだ顔を見た、途端。消え入るように、か細く、掠れて。
「私、もう、こんな。こんな、化け物みたいな……こんな姿だし、中身だって……もう、嫌だよね……」
「嫌、って、何が……」
言葉に出した時には、既に。私も。彼女の言わんとしている事が、分かり、分かって、けれど。
けれど。聞きたく、ない。
「私みたいな、こんな、もう、その辺のアンデッドと変わらないやつと」
「違う。やめて」
「むしろ、私のほうが、よっぽどって、そう思うでしょう?」
「違う。違う。そんなことない。やめてってば」
「リティだって……こんな気持ち悪い体の。気持ち悪い体だってッ! あの時だってそう思ったから! 私みたいな化け物と一緒になんてッ」
「違うッ!!」
今度は、私が。声を張り上げる。そして、ほんの少し前の私と同じように。今度は彼女の、体が
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