終わった世界で
一 雨と心音
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腹に。足に。突き刺さる何かと、崩れ落ちる身体。 それが、敵の。大きく体を抉られ、血を噴き出しながらも悪意を剥き出しにした、異形の爪だと気付いたときには。
引き抜かれた爪。栓を抜かれたように溢れ落ちた血と、埃に塗れた床に。頬を打ちつけていて。
「リ――」
随分と低くなった視線。見えるのは、浮かぶオラクル、傷付きながらも腕を振り上げる異形。そして。
マトの姿。恐怖に歪んだ、怒りに歪んだ。その表情も。
あの時と同じ。あの時にも見た。そして、次。起こることも、私は。彼女の身体から溢れ出すそれを。蠢くそれを。私は、既に知っていて。
「マト、私は大丈夫だから、平気だから……」
低い低い視線。少しでもはっきりと、私の声を届けようと。私の左耳に備え付けられた装置、私の声を指向性のあるそれに変える装置を通して語りかけても、もう。彼女の心へは届かずに。届かずに。彼女の爪が、彼女自身の肌を貫き。切り裂くことを止めることを。止めることは、出来ずに。
彼女の身体が縦に裂ける。裂けた身体から溢れ出すのは。無数の肉蛇、蠢き、絡み、空を切り。目の前の敵へと向かって飛び、捕らえ、牙を突き立て、刺し貫き喰らい飲み込む。彼女の中に巣食った、黒く鈍く光を放つ、蟲の姿。
彼女の嫌った。余りに、人間離れした。余りに悍ましい。その蟲の群れを解き放ち、弾けるように溢れ出した、宙でのたうち地を這うそれを。
怒りに我を忘れて。迫り来るアンデッドへと向けて放つ彼女の顔は、狂気に取り憑かれたように。幾ら私が声を掛けれど、名前を呼べど。その狂気を晴らすことなど、出来ずに。
無数の蟲は、蛇は。崩れ行く二つの死体を黒く黒く塗り潰し黒い黒い身体に呑み込み黒に染め。狂気を孕んだ笑みを零した彼女は。
涙を。自棄に黒い涙。あの時と同じ。あの時と同じ。
血の色をした、雫を零して。
雨は降り続ける。壁に走るのは先よりも多くの亀裂。暗い天井から落ちるのは、先より多くの雫の群。
静けさを取り戻した廃墟は。しかし、先の平穏、穏やかさは無く。床に転がる私と、肉蛇に埋もれ立ち尽くす彼女。彼女の細い体の何処にあれほどの量の蟲が詰まっていたのかと。二体のアンデッドを引き裂き、飲み込んでも尚変わらぬ彼女の姿、体。腹を、足を打ち貫かれても、痛みの一つも感じない私の体。二人、こんな体にされたことを怨みつつ、床に積もった埃に塗れ。血肉に塗れ。彼女の足元へと這い進み。
名前を、呼ぶ。呼んでも、彼女に。彼女の心に。私の声は、届かずに。蠢く触手、埋もれ、時折覗く白い肌。もしかすると、もう。覗いた一部、その部分を残して、既に。彼女はその、蟲の群に食われてしまっているのではないか、と。この蟲は、彼女自身。この蟲もまた彼女であると。自身を喰らいつ
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