終わった世界で
一 雨と心音
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いた二丁の拳銃。振り向き様に、姿を現したそれ。狂った、壊れた少女の形をした、浮遊するそれへ向き直る。
彼女の口から零れ落ち続ける言葉を聞き取るのは難しく。時折声を張り上げたかと思えば、やはり。何を意味するのかも分からない。妄言、悲鳴、呻き声。此方の言葉も届きはしない、壊された精神、心は。それ自体が、無自覚な武器として振り回され。
精神の壊された少女、と言うならば。それこそ、あの悪趣味なネクロマンサーが、その手駒として差し向けて来たことは既にあり。今更、心を乱されることは無い。
厄介なのは、その姿、言動よりも、ESP。彼女自身、制御し切れている訳ではないのだろう……制御しようとさえしていないのではあろうけれど……その力は。私の身体を触れること無く抉り取り。崩し。徐々に、しかし、確実に。解体しつつあって。
痛みが殆ど無いことを、幸いと言うべきか恨むべきか。突き出した両手、狙いを定める両腕が。彼女の攻撃に依ってぶれることは無く。オラクルへ向けて銃弾を吐き出すが早いか、マトに続いて異形へと跳ぶ。
オラクルの近くに居てはならない。彼女のぶつけてくる心像、イメージ、極彩色の幻覚は。私の正気を削り取る。
「リーチが長い。それに速い」
「了解、ありがと」
異形の人型と対峙する彼女が、振り向く事もなく、言葉少なくそれだけを伝え。
言葉を返し。相手の腕、鋭い爪を備えた腕の一本が降り上がると同時に、右へ跳び。
私が。たった今まで居たその場所を、その大爪が打ち貫いて。数メートル程離れた異形、動き出した直後に目標へと届く速度。彼女の言葉が無ければ、腹を割かれていただろう、と。
震え上がる暇さえ無く。大きく跳ね、間髪入れずにまた、跳び。空を切った爪を躱して、銃弾を放つ。
一発目は当たり。二発目は外れ。銃弾を受け、私へと注意を向けた異形、その、肩から腹にかけて。マトの爪が深く切り裂き。
噴き上がる赤い粘菌。それを浴びた彼女は。
笑っていて。普段の、感情を抑えた彼女とは違う、戦いの中での彼女。敵を切り裂く時の彼女。もがき苦しむ敵を見て笑う、嗤う、嗤う彼女のその姿は。笑顔は。
私の望んだ笑みでは、無くて。なのに、美しさすら憶え。そんな思いを振り払うように構えた、対戦車ライフル。それを。
マトの背後。突然其処へとテレポートした、オラクルへと向け。その、腹を吹き飛ばした。
「――――」
叫び声は廃墟に響き。彼女の周りを飛び回る瓦礫が一人でに砕け、弾け飛ぶ。その中で、また。
血飛沫。見れば、血塗れのマトが――返り血に染まった、マトが。更に深く敵を抉った、その姿を見。
最早、私も、彼女も。随分と人間から離れてしまったな、と。あの子が今の私たちを見たならば。どう、思うのだろうか、なんて。
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