暁 〜小説投稿サイト〜
或る短かな後日談
終わった世界で
一 雨と心音
[4/9]

[1] [9] 最後 最初 [2]次話
物主は私をオートマトンと、そう名付け。成る程、動くだけの人形。心は要らず。生まれたときから、作られたときから既に、心なんて要らないものと。

 薄暗い闇の中から響く雫の音。規則正しく落ちるそれは、浅く張った水溜りに波紋を作り、静かに、時を刻み。私の心音も、また。外の雨音、鳴り出した雷。それ等全ての雑音など、知らず、知らず。雫と共に、自分の時を刻み、刻み、刻んで。更に、奥へ。更に暗い方へと、歩み、歩み。

 歩んだ、先。其処に。

 其処に。それは、居た。



◇◇◇◇◇◇



 返すべき言葉を見つけられず。いっそ、言葉など思いつかずとも。その手を握り、引き止めてしまえばよかったのかも知れない。知れないというのに、その姿。マトの姿が彼女のそれと重なって……重なったと、言うのに。
 彼女を。引き止めることが出来ず。暗がりに消えるその姿を見送った。
 
 マトは、彼女のことを引き摺り続け。ある種の狂気。それは、マトだけではなく。私の心にも植えつけられた。互いに、未だ。そしてきっと、ずっと。彼女を忘れることなんて出来ない。これだけ深く刻み込まれてしまったならば。
 例え、狂気を孕んだとしても。絶対に、忘れることなんて出来はしない。そのことに安心してしまう自分がいることも――無論。彼女が隣に居てくれたのであれば、と。何度祈ったかも知れず。祈る相手さえも分からない世界、幾ら私達が一度死に、新たに命を吹き込まれた存在だと言えども。
 彼女はもう、戻ってこない。彼女を失い苦しむマトや、私の姿を見ることを。悦びとする奴が、態々彼女を生き返らせてくれたりなんてしないだろう、と。

 諦めと、吐き出し方の分からない怒り。体の中で渦巻くそれを不快に思いながら。そろそろ、明かりが必要になるだろうと。ベルトに吊るしたポーチ……銃やら、ナイフやら。随分と多くの装備。そして、どれもが自棄に手に馴染む……皮で出来たその鞄から、小さなライトを取り出して。
 止まない雨を囲んだ、殆ど光を失った扉を、見れば。

 其処に立つ。人型。否。人間のそれとは異なる。数本の腕。背後、光り輝く雷、逆光で黒く塗り潰された奇妙なシルエット。敵襲。とっさに、銃を――

「ッ、マ……」
「リティイッ!」

 向け。彼女を呼ぼうとした、刹那。奥の部屋、響き渡る絶叫。背筋、体中から熱が引く感覚。聞いた、私は。
 構えた銃もそのままに。彼女の元。その暗闇へと駆け出し。飛び込んで。

「マト!?」

 見た、のは。
 薄暗い闇の中。浮遊する少女の体と、膝を着き。悶え苦しむマトの姿。震える空気と、浮かび上がり跳ね回る塵、瓦礫、独りでに曲がる剥き出しの鉄骨。浮遊する少女、その姿を見ただけの、私の視界にも移り込む鮮明な、不可思議な映像、歪み歪んだ光、幻。無数
[1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ