第十三章 聖国の世界扉
エピローグ 狂気の王
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詮なきことか……気にするな」
「………………」
首を横に振りながらため息混じりの声を漏らすジョゼフに対し、ミョズニトニルンは出そうになった声を飲み下し小さく頷いて返した。
それを横目に、視線を薔薇園へと戻したジョゼフは、突然両手を大きく左右に開く。
「―――それでは、始めるとするか―――“戦争”を」
まるでどこぞのオーケストラの指揮者のように両手を広げるジョゼフ。
高らかに、宣言するように大きな張りのあるバリトンで、世界よ聞けとばかりに大きな声で―――。
「得るためではない、ただ殺すための戦争を―――」
声を一旦止め、大きく息を吸ったジョゼフは、高らかに宣言する。
おおきな、おおきな声で、狂気の色を混ぜ合わせた声で―――。
「さあっ殺そうッ! 男を女を、老人を子供を、平民を貴族を、兄弟を―――そして神さえもッ!! 全てを殺すために、世界を殺すためにっ!! この世のあらゆる善なるものを踏みにじり汚し尽くす為にっ!!」
胸を―――心臓を―――心を握り締め―――天を仰ぎジョゼフは叫ぶ。
「神よっ! おおっ神よっ! “虚無”という名の力をおれに与えた神よっ!! 貴様が与えた力でおれはお前を殺そうっ! 全てを滅ぼし尽くし、この世の全てが消えた時―――」
天を握りつぶさんと掲げた手を、震わせながら目の前に下ろしたジョゼフは狂気に彩られた声を一転させ。
「―――おれの心は動くのだろうか……」
その心のように平坦な声が溢れる。
「シャルルよ。お前をこの手にかけた時より動かないこの心が動くだろうか……“虚無”―――ははっ、なんと皮肉なことか。その名の通り、おれには何もない。何もないからこそ何も感じない。憎しみも、怒りも、悲しみも、喜びも何もかも……だが―――ああ、だが、おれはここにいる。血の流れる身体を持つ人間としてここにいる―――ッ」
低く頭を垂れるように段々と下がっていた頭がピタリと止まり―――伏せていた顔から覗く口元が裂ける。
空に広がる青空に似た髪を振り乱しながらジョゼフは顔を勢いよく上げると、哄笑と共に叫ぶ。
「だからこそっ!! だからこそおれは泣きたいっ!! ああっ、この空虚な心が震えるのならばっ! おれは何でもしようっ! 尊きものを汚し、美しきものを踏みにじり―――世界さえ滅ぼそう」
歪み捻れた意志に形作られた叫び。
死に際の狂った狗の吠え声のようなソレは、濁ったへどろのような臭気さえ感じさせる。
空を望む鳥のように、両手を翼のように広げたジョゼフの吐き気を催す声が、天へと昇り世界へと広がっていく。
「全てが滅びた世界の終わりで―――ああ……おれは悲しむ事が出来るだろうか……人として……泣くことが……」
ポツリポツ
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