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素直は恥ずかしい
第五章

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第五章

「何でもないわ」
 しかし彼女はそれをあっさりとかわす。そのうえで言う。
「じゃあ行きましょう」
「はい」
 こうして二人はまた一緒にリサイクル室に行き竹刀をそこに収めた。若菜は健次郎が竹刀を収めるのを満足した顔で見ていた。何処か上機嫌であった。
「これでいいんですよね」
「ええ」
 何故か少しにこにことしていた。
「上出来よ」
「けれど何でそんなに嬉しそうなんですか?」
「ええ、実はね」
 ここでおっと、と立ち止まった。危うく言うところだったのだ。
 それで咄嗟に誤魔化す。その間それを健次郎に悟られまいと必死だったのも内緒である。
「こうやってリサイクルにちゃんと出されたことが嬉しいのよ」
「そうだったんですか」
(危ないところだったわね)
 内心冷や汗をかきながら呟く。それも表には出さない。
「生徒会長としてね。嬉しいことだわ」
「それは何よりです」
「皆無駄遣い多いから」
 もっともらしいことを口にする。
「だからこうしてリサイクルされるってことが嬉しいのよ」
「やっぱり無駄遣いってよくないですからね」
「そういうこと」
 何も知らない健次郎はあっさりそれに乗った。ここで見事に年の差が出た。だがそれもまた内緒である。
「じゃあまたね」
「はい」
 若菜にとってはどういうわけか満足のいくものであった。そのせいかそれから暫く彼女は実に上機嫌であった。あまりに機嫌がいいので周りは何があったのかとヒソヒソ話をする程だった。
 だがわかっている者にはわかっているものである。この場合は片桐がそうであった。
「二回目らしいな」
 廊下で彼女と擦れ違った時にこう声をかけてきた。
「この前ので」
「知ってたの」
「それだけにこにこしてたらな」
 相変わらずにこにこ笑っている若菜に対して言う。
「あと一回だな」
「ええ、もう少しよ」
「しかしまあ何だな」 
 片桐も笑っていた。笑いながら彼女に対して言う。
「御前があんな話信じるなんてな」
「意外かしら」
「ああ」
 片桐は即答した。
「正直驚いてるよ」
「うふふ」
 若菜は若菜でそれを肯定するわけでも否定するわけでもない。ただ含み笑いを浮かべるだけであった。
「で、あと一回終わったらやっぱり」
「勿論」
 笑いが変わった。にこにこしたものから企む顔になっていた。
「当然でしょ」
 そのうえで言う。
「ただし、それは内緒よ」
「了解。じゃああいつには内緒にしておくよ」
「頼むわよ」
「最後の最後でドッキリってわけか」
「そういうこと」
 企む笑いはまだ続いていた。


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