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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十四話 将軍閣下達の憂鬱
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 皇都内某所
三蔵屋大番頭 高橋 


〈皇国〉財界の利益調整組織である〈寄合〉、その構成員達が集う場所に大手両替商の番頭、高橋は居た。
 品よく豪奢な毛氈敷に丁重に刈り込まれた樹木と敦川から流れる涼やかな風が通る
上座に田崎千豊が座る。これは恒久的なものではなく月番で決められるものであった。
高橋から一人挟み、上座側に座る槇氏政に艶のある流し目を送り、議事進行を始める。
「さて、皆様。そろそろ始めようと思います」
女性がこの場を取り仕切ることに文句をつける物は居ない。〈寄合〉の構成員は〈皇国〉の経済を担う三十名以上の大店の利益代表者であり、この場にいる全員がその構成員である。つまりは競合しているか、取引相手か、どのような形であってもこの場にいるのならば、大半の人物がどれほどの辣腕を振るっているかを知っている。
 だからこそ〈寄合〉の構成員に選ばれた事で高橋が取り仕切る三蔵屋はようやく皇都で誰もが大店と呼ぶようになったのである。
そしてそれほどの者たちが集まる、それだけの価値がこの場にある。
と言っても〈寄合〉のみがこうした場に価値をもたらすわけではない、無論、〈皇国〉経済の事実上の意思決定の場に招かれるだけでも大いに価値がある、だが商家にとっては、むしろ〈寄合〉の構成員の間で行う“雑談”の場を提供しているからこそ、といった面もあるのだ。

「先日の回状の通り、これより流入が予想される疎開政策の避難民の扱いについて。ということですが」

「――三蔵屋様はいかがでしょうか?」
 駒州と関わりの深い三蔵屋に話が振られる。弓月が発案し、駒城が推し進めた政策。当然、このことを予測したうえで高橋は好々爺然とした笑みを崩さずにいう。

「さてさて、無論、貧ずれば不要な軋轢を産みますからな、なにもしないという真似はしますまい。
人手が必要な場はこれからも増えるでしょう、徴兵分の補填というだけではなく。そうした場への斡旋は必要になるかと」
 あくまで商いの範囲でだけ言明を行う。高橋は既に芳峰夫妻との取引を行ったときにこの考えを温めていた。鉱工業だけではない、これから兵をとるのならば、必ず人手を欲する場は増える。ならば商いになる、欲求が増えるのならば、そこに売りつければよい。

「だが、問題はどれ程の頭数が流れ込むかではないですかな。軍部はそこから補充兵を捻出したいようだが」

「間に合わねば近隣の〈大協約〉保護下の都市に逃げ込むだろうからな。
無論、逃げるにしても役人達は虎城より西に逃がしたいようだが」


「結局のところは敵さんの問題でしょうな。連中がどれほど元気に動けるかで我らの命運も決まる。冬まで軍隊が持つことができれば一息つけると軍人さん達は考えているようですが」

「就業斡旋は行う。だがそこから先は状況
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