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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十四話 将軍閣下達の憂鬱
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信に満ちた態度の手代とはまた違う静かで芯の通った歩みは、男であれば良い将校となったであろう、豊守に確信させるものであった。
 金属粉が舞う工廠の中でもその身にまとい寡婦羽織は最大手兵器商を切り回す辣腕女主人のトレードマークとなっている。
「申し訳ありません、閣下」
 蓬羽兵商の女主人、田崎千豊はにこりと整った顔に笑みを浮かべた。

 すごすごと工廠を出てゆく手代を見て豊守は肩をすくめた
「なに、あぁした鼻息が荒いもの嫌いではないよ、半刻くらいの間はあの手の騒がしさは目新しく感じる」

「ならば今少し目新しい物はいかがでしょうか?」
 微笑を浮かべたまま手招きすると屈強な工員が箱を運び込んだ。
「これは――?」
 箱の中身を見て豊守は息を飲んだ。
「はい、私共が御国の起死回生を賭けている新作の一つでございます。
試作六十四式鋭兵銃と仮称しています」

「遂に完成したのか――成程、手が込んでいる。
だがこうも手が込んでいると軍人の蛮用に耐えられるのかね?」

「その手の試験運用を実地で行えれば良いのですが。えぇ無論、書類上の基準は達しておりますわ」

「ほぅ。だが実績のない兵器をいきなり前線で用いるわけにはいかんな。やるとしても小規模にやらなくてはいけない。参ったな、そうなると単価がな。量産を決定づけるわけでもないから将家の軍に持たせるわけにもいかない」

「……」

「そうなると辛いな、実際辛い。部署が違う、私は総務課の者だ。予算に直接あれこれ融通を聞かせるわけにもいくまい。主計課じゃないからな、話を通すくらいなら努力するが」
 千豊が微笑をひくつかせるが、意に介さず豊守はにたにたと笑いながら言葉をつづけた
「いやはや、なにか説得材料があればよいのだが、説得材料があれば陸戦隊を扱う水軍にも口利きできるのだが」

「……三百丁程を無料で提供できます。整備用の部品や予備の供給は有料ですが」

「おぉすまんな。なに、それであれば駒州軍に口利きできる。そうなったら前線にいる試験的な部隊に供与されるだろう」
 つまりは例の第十四聯隊に回る(馬堂家が支払う)という事である。
 千豊も即座にそれを理解し、からかうように言った
「閣下も子煩悩ですわね」

「笑ってくれるな、一度死んだと思うと、どうもな」

「笑いませんわ――笑う相手は好き好んでそんな真似をする連中ですよ」
 寡婦である大店の女主人はたたえた微笑に苦いものを混じらせた。

「――あぁそうだな。そうだろうな。いやはや耳が痛い。だがまぁ許したまえよ、ここで戦争が終わったら市井は二度と戻らんよ」
 豊守も千豊も笑みを絶やさず、内心の苦虫をつぶしたような思いを飲み込んだ。
 ――なんともはや戦争という物は



同日 午後第五刻
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