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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十四話 将軍閣下達の憂鬱
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衛線を構築し、後備部隊の戦力化を急ぎます」

「・・・それで?」
 まぁそこは常道通りかと安東も頷く。
「敵の兵站線は伸びきっており、水軍の通商破壊によって負担をかけ、消耗させます。」

「・・・・・」
 楽天的過ぎないだろうかと言いたげに目を細める。
「機を見て反撃に転じ、敵を駆逐します」
「どうやってだ?北領で数の優位をもってしても敗退したのは何処の軍かね?」
 たまりかねたのか安東が志倉を問いただす。
「導術による指揮運用体制を整えさせれば或いは・・・」

「ほう!軍監本部総長殿は“或いは”で軍主力を投入するのかね!?」
 嫌味たっぷりに安東が声を上げる。
「は・・・」
 再び萎縮した志倉に安東は溜息をついた。
「冬営に耐えうる態勢を整える事と後備の動員を可能な限り徹底する事に関しては最大限の努力を行なう事は確約する。・・・軍監本部には春季の国防戦略に関してより具体的な立案を要請する」

「承りました、それでは」
そう言い残し、そそくさと出て行った軍監本部総長を見送った老人は――重いため息をついた。

「あぁ、君。済まないが何時ものやつを頼むよ。」
 従卒が即座に運んできた薬茶が胃に染み渡るのを感じながら溜息をついた。
 ――次は追加予算編成の為に大蔵省との折衝か。
この半年で一気に老け込んだ事を自覚しながら更に老け込む仕事へと立ち上がった。



同日 午後第二刻 蓬羽兵商工廠
兵部大臣官房総務課理事官 馬堂豊守准将


 ――この建物自体が一つの生き物のようだ。
 〈皇国〉最大の軍需企業、蓬羽兵商の工廠を視察している大臣官房の実務を取り仕切る者のひとり、馬堂豊守総務理事官は、素直に感嘆していた。
「大したものですな。御店の工廠を訪ねさせていただいたのは十年も前ですから、こうも流れるように、というものを見るのは初めてですよ」

「一日いただければ一個大隊に施条銃を配ることができます。工廠の増設が完了すれば並行して砲工廠で、擲射砲中隊をつくれます!規模がね!違うんですよ!」
 本店の筆頭営業手代が揉み手をする。三十手前程だろうか、いかにも新進気鋭といった雰囲気だ。
「蓬羽はこのような工廠を複数、皇都だけではなく皇州に複数散らして持っております。貴省から更に御支援をいただければ、更に生産力が向上!御国の護りも万全です!」

「そうかね」

「ハイ!御国を護る精兵達をこうして支えているのです!
御国がさらに発注してくださるのならば我々もいくらでも――」
 豊守が静かに笑みを深めた。

「そこまでになさい」
 凛とした涼やかな声が工廠の騒音を貫いた。
「お、奥方様?」

「熱心なのはいいけど、もっと相手を見る事ね、下がりなさい」
 先ほどまでの丁重ながら自
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