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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十四話 将軍閣下達の憂鬱
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きらかだ、現に個人副官も官房に退避している。
 安東家が財政破綻寸前まで追い詰められている中で執政府での影響力を保ち続け、東州の復興と家産の立て直しに奔走した能吏である。
 彼の怒りを買いたがる者が兵部省に居るはずはない。
 対面に立っている軍監本部総長・志倉久正大将も同じ思いを共有していた。
 並立している軍令機関の長と言うよりも部下の官吏であるかの様に汗を絨毯に滴らせながら顔を伏せている。宥め役だった官房長も、個人副官すらも既に逃走しており、当事者である彼のみでその怒りの津波を受け止めねばならない。
「志倉総長!!これは一体どうした事かね!!」
「こ・・・後備の動員が不完全でして・・・今少しの時間と予算をいただけていれば・・・」
 軍政に問題があるのだと総長は反論しようとするが、その口調は弱々しいものである。
「弁明は罪悪と知りたまえ!そもそも、来度の戦に軍の主力を投じたのは貴様らが勝てると判断したからだろうが!!こうも敗北が続くとは・・・・太平の世の毒が回ったか」
 それに対して安東伯は怒りに任せて執務机を叩き、怒鳴りつけている。
形式上の対等関係が無視されたこの光景の理由は、二十五年の太平に適応した軍隊の必然だけではなく、彼の主家である宮野木家の情勢も関わっている。
 背州公である宮野木和麿は退役に追い込まれており、主家直系の軍人である宮野木清麿は三十半ばを過ぎた程度の若さで中将の任に着いているが、政治的実権を父が未だに握っている所為もあるのか五将家の次代を担う陸軍将官としては異常なほどに政治的な活動を起こさず、口さがない者には糸の切れた傀儡とまで言われている。
 二年前に彼が軍令機関の長へと推挙された事はこうした事情によって弱体化した宮野木閥に所属し、彼が穏健な(或いは気弱な)性格である事が強く影響している。 戦慣れしていない軍隊に付き物である硬直化した運用思想はこの〈皇国〉陸軍でも例外ではなかった。
 事実、新兵科である剣虎兵に関しては〈皇国〉陸軍史上でも最高峰の柔軟さで運用法から軍装まで変革を遂げているが、既存の部隊に関しては大隊縦列の運用や銃兵隊に随行する砲兵の増強などが行われ、相応の効果を見出されているが、正面戦闘で〈帝国〉軍と戦うには質・量共に不足であるのが現実であった。
 一通り軍監本部の失態を罵ると疲れきった老人は椅子に身を沈めた。

「我々は明英大帝以来、不可侵の楽土、この〈皇国〉を東半分〈帝国〉なぞに譲り渡したのだ。
儂は陛下になんと言ってお詫びをすればよいのだ・・・。


「・・・・・・」
 志倉は無言で首を振るだけだった。つまるところ相手が悪いとしか彼が言える解答が無いのだ。
「・・・軍監本部はこれから如何に凌ぐつもりだ?」

「皇龍道・内王道の二街道を早期に封鎖します。早急に防
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