暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十四話 将軍閣下達の憂鬱
[2/8]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
軍を東州・第三軍を虎城まで転進させる予定である。第三軍には必要に応じて民間人の保護に関して地方警務本部を支援する」
 按田は如才無く展望を述べた。
「閣下」
 原坂中佐が手を挙げ、議長役を務めている窪岡戦務課長が頷いた。
「うむ」
 
「兵站課より補足させていただきます。兵員の運輸に関してですが、輸送船舶は東州派遣兵団の運輸に使用した物を中心に必要分は東州より既に港湾に集結し、東海洋艦隊の指揮下に入っております。
港湾都市である育浜まで辿り付けば即座に東州へ第二軍を輸送できる事は艦隊司令部より確約を得ております」

「第三軍と民間人の退避にはどれ程かかるのか?」
 尾島中佐の問いかけに原坂中佐が短く答える。
「少なくとも五日は見積もって頂きたい。それまで兵力が持たせる必要がある予想される敵戦力は?」

「最新の情報によると〈帝国〉本土よりより増援が届くとおおよそ十四万を超えるものと予想されます。本営と再編中の部隊の防衛に一個師団と直轄部隊をあてるものと考えるならばおそらく〈帝国〉軍が追撃に回す兵力は十万程になると戦務課は想定しています」
 呻き声が会議室に満ちた。
「――第三軍の現有戦力を後衛戦闘に充てる事はできないのか?」

「第三軍は西州・駒州鎮台の主力部隊を多数組み込まれており、最優先で虎城に戻さねば防衛線構築が極めて困難になります。現状、虎城の主要街道に即座に展開出来る護州・駒州鎮台の兵員と第三軍を合流させて漸く七万程度です。侵攻路に成りえる三道の防衛を辛うじて行う最低限の兵数に届く程度であり、これ以上の損失をしいる事は危険であると判断できます」

「それも後方支援を整えた上である事を忘れないで頂きたい」
 原坂が顔を歪めて戦務参謀へ釘をさす。
「戦務課としましても支援部隊の運用に関しては兵站課との協議を怠るつもりはありません」
 按田中佐は兵站参謀へと頷いた。陪臣が得る護州の窓口としては最高の相手を敵に回す事は彼には考えられなかった。

「ならばまずは――」
参謀たちはその頭脳をもって策を練る閨閥の利益と職務を擦り合わせ、次の春まで国を繋ぐ為に。
 ただ国のためだけではなく――どうにか国家の命運を繋がなければ何もかもが失われ、閨閥が弱まれば己が消えるのだから。
 堂賀はそれを批判するつもりはない、だがそれでも愚痴を内心にこぼすくらいはした。
 ――まったく、健康に悪い仕事だ。



同日 午前第十刻 皇都 兵部省 兵務局総合庁舎 兵部大臣執務室


「・・・・・・ふん」
兵部大臣である安東吉光は報告書に目を通すと鼻から息を吐き出した。 だが、陸軍・水軍の軍政機関の頂点の座に在る老人は感情を殺しきれているわけではない。
 ぶるぶると震えている肩と引き結ばれた口を見ればそれはあ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ