第二章
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第二章
「その誰でもね」
「そっちでもないのか」
「それであなたの一番よく知ってる人よ」
それはあくまで変わらないことなのだった。
「一番ね。それか」
「それか?」
「一番知らない人なのかも知れないわね」
「俺が一番よく知っていて」
朝食を食べながら考えるのだった。その醤油味そのものの朝食を。
「一番知らない奴か」
「わかったかしら」
「わかるか、そんな奴」
「けれど浮気するから」
こう言うのだった。
「わかったわね」
「俺の何が不満なんだ」
思わず言ってしまった言葉だった。
「何か悪いところがあったらなおすぞ」
「悪いところはないわ」
するとこんなふうに返す祐子だった。
「別に。むしろ」
「むしろ?」
「いいところに気付いたからよ」
「いいところに気付いた!?俺の!?」
「そうよ」
そうだというのである。
「だから浮気するのよ」
「全然意味がわからないんだが」
「すぐにわかるわ」
するとこんなことを言ってきた。
「すぐにね」
「今日中にか」
「そうよ。わかったわ」
「ああ。わかったら」
「お仕事行ってきて」
こう彼に言うのだった。
「お仕事にね」
「ああ、それじゃあな」
とりあえず気持ちを切り替えた。そうして妻に告げたのだった。
「今日も頑張ってくるからな」
「それは御願いするわ」
「金細工なら任せておけ」
彼の仕事はそれなのだ。金細工職人なのだ。金も銀も彼にかかれば素晴らしい装飾になる。その腕はかなりのもので日本中にその名を知られている。
その店も持っている。生活は困っていない。
そのことを言われてだ。一気に仕事に考えを切り替えたのだった。
「食べて歯を磨いたら行くからな」
「それじゃあ御願いね」
「ああ、行ってくる」
何はともあれそれで仕事に出るのだった。そして仕事にかかる。
仕事は彼が細工を作って店の人間がいる。店は弟の義人がやっている。経営は弟がやっており二人三脚でやっているのである。
彼は店の奥の作業場で火を使いながら金細工を作っている。その中で思うのだった。
「誰なんだ」
やはり考えるのはこのことだった。
「相手は。誰なんだ」
その妻が言う浮気相手である。
「誰と浮気するんだ?しかも」
さらに思うことは。
「今日か」
その言ってきた言葉である。
「今日浮気するのか、あいつ」
だから余計に考えてしまうのだった。今日だというと。
「誰と今日会うんだ」
それが気になって仕方がない。だが手は自然に動く。それでまた一つ作る。すると店の方から弟の義人が来たのであった。そして彼に問うてきた。
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