第5話 僕タチハ死ンデシマッタ
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その窓辺、こちらに背を向けて立つ後ろ姿を目にし、ルネは今度こそ恐怖の声をあげた。
宮沢さんがくるりと振り向いた。ああ、見てはいけない、と、ルネは顔を背けた。
「あなたはいいわよね、自分でさ……」
顔を背けたその先の机に花瓶が置かれていて、挿された花が、黒くしなびている。
「向坂君」
背中の産毛がすべて逆立つのを感じた。
下から来る。怖い奴が来る。紙人間が来る。
殺しに来る。
宮沢さんが叫んだ。
「私は死にたくなかった!」
教室の後ろの引き戸が勢い良く開かれて、UC銃が見えた。紙人間ではなかった。UC銃の持ち主と、視線があった。
銃の持ち主、明日宮クグチと入れ違いで、ルネは廊下に飛び出した。ルネはもう、わかっていた。記憶が存在しない理由を理解していた。
怖かったのだ。今、UC銃が怖いのと同じように、あの時は未来が怖かった。この先の人生に自分のものが何もないという予感が怖かった。
だから逃げた。今と同じように。
開け放たれた非常扉から外へ。
非常階段への手すりから身を乗り出した。
高い、と思った。二十メートルくらいだろうか。たかが二十メートル。それを移動する手段に転落を選んだ。
だから僕は。
手すりからACJの特殊警備員がUC銃を突き出し、狙っている。いや、これすら幻覚かもしれない。
体育会は自粛になったんだ。
僕が自殺したから。
―4―
ルネが弾けて消えた後の地面を、クグチは非常階段の手すりからUC銃を突き出したままの姿勢で見つめ続けていた。ルネや、生徒や、父兄たちの『幽霊』が存在した形跡は、もはやどこにもなかった。あの人たちの遺体はどこにあるのだろう。クグチは雨に打たれて動かない。遺体も、消えたのだろうか。電磁体と同じように。潰され、焼かれ、跡形もなくなったのだろうか。
銃をひっこめた。クグチは二階の視聴覚室に向かう。
視聴覚室の黒いカーテンを閉め切り、古いパソコンの電源を入れた。緑のライトが点灯する。起動音をたて、モニターに光が宿った。
学校で使われるだけあって、モニターに表示される画像は素っ気ない初期設定のものだ。クグチはずっと持っていたショルダーバッグからトロフィーを取り出した。そこに収められたメモリーデバイスを、パソコンに挿入した。
パソコンがデバイスの読みこみを始める。やがてメッセージが表れた。
〈1件 のデータを確認しました 動画 1件〉
再生する、の青い文字を押す。
スピーカーからノイズが流れ出し、画面が明滅する。
五人の人物が画面に現れた。男が四人、女が一人。皆まだ若い。照れたように、気まずそうに、四人は撮影機材を直視せず、薄笑いを浮かべている。
「いやその、どうする?」
左端の男が言い、女が答えた。
「やっ
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