第5話 僕タチハ死ンデシマッタ
[8/12]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
人で中央の席に座っていた。
「宮沢さん」
同級生だった。女子は、固く唇を結んだまま、ゆっくり顔を上げた。
「……宮沢さん、今、もう一人誰かいなかった?」
やはり口を開かぬまま、首を横に振る。ルネは戸惑い、言い淀んだ。仲が良かった同級生ではないが、こんな無口な、暗い人だったという記憶もない。
「宮沢さん、何してるの?」
戸口に突っ立ったまま尋ねた。
「何か困ってるの?」
「大事なものをなくして……」
「何を?」
答えない。
「どこでなくしたのかな」
「伊庭君と……体育館の、二階の体育準備室の前で会う約束があったから、そこかもしれない」
「体育館」
ルネは頷いた。
「あの、宮沢さん。春の体育祭って、どうなったの」
「何言ってるの。体育祭どころじゃないでしょ? あんなことがあったのに」
「あんなことって? 僕、入院してたからわからないんだ……ねえ、僕はどうして入院していたの?」
「怪我をして――」
言いかけたまま口をつぐんだ。
「……宮沢さん」
「体育館に行ってみたら、思い出せるんじゃない?」
ルネは不安と不快を共に抱えて背を向けた。
この廊下の突き当たりに、体育館の二階につながる渡り廊下もある。渡り廊下と校舎を隔てる戸も開放されていて、ほの白く明るい。
雨が強くなっていた。
体育館の一階の外にはあの父兄たちがいたはずなのに、どこに行ったのか、もうその声が聞こえない。
二階の体育準備室には渡り廊下に面した窓がある。窓には格子がかかっているが、その窓が、開いていた。
格子越しに中を覗いて、ルネは動揺し、声をなくした。
剣道の防具が並ぶ中に、女子がうなだれて正座していた。
「宮沢さん」
ルネは声を絞り出す。
「どうやって先に来たの? なんで」
彼女はゆっくり、ゆっくり、白い花が開くように顔を上げ、「開かないの」と呟いた。
「開かないって?」
「閉じこめられちゃった。吉野さんたち、ひどいいたずらするな」正座したまま、「私が伊庭君と会ってるのが気に食わないんだ。ブスども」
「宮沢さん、でも、さっき視聴覚室にいたじゃない――」
「はあ? 変なこと言わないで。私ここから出られなくて困ってるんだよ?」
「――ごめん」
「鍵を持ってきてよ。吉野の体操服のポケットに入ってると思う。あいつ頭悪いからしょっちゅうそうやって忘れるんだよね。あ、3Cの教室だから」
「3年C組? なんでそんなとこに」
答えない。ルネは格子に触れた。冷たくて、びくともしない。
「……わかったよ。待ってて」
暗い校舎に戻った。三年の教室は四階だ。
四階まで上がると、学校のまわりに他に高い建物がないため、教室から廊下にこぼれる光の量が増えた。
3年C組の教室を見つけ、足を踏み入れた。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ